
ビジポコ編集長に聞いてみよう!のコーナーです。
仕事をしていると、エクセル、パワーポイント、その他分析アプリを使って思考を形にしたり、数値化したりすることがあります。気がついたらとてつもない時間が経過しており、何の進捗もない場合が多々あることに気がつきました。
「やってる感」という言葉があります。仕事をしているっぽく見えるありさまのことで、主に特定の政策・施策に対して、政治家が自分(ら)の貢献を有権者に示すための演出として、またそれを揶揄する言葉としてここ10年ほど使われてきました。
政治と宗教の話は避けたいところですが、今や新型コロナウイルスの蔓延で、さまざまなビジネスが政治の動向なしには語れない状況です。そこで、今回は特定の政治家や政党を応援も批判もしない形で、話を「やってる感」というレベルに引き上げ、仕事した気分になっていないか問題についてお届けしようと思います。
仕事のやってる感
エクセル、パワポ、分析アプリ。
今やクラウドにすらなっており、時間と場所と働く相手を問わず、仕事が進められる素晴らしいツールです。一方、その便利さの裏返しとして、仕事をしている気分にさせる恐ろしいアプリという側面があります。ビジポコの河上編集長に相談しました。
「パワポや分析アプリをいじっていると、無限に時間が過ぎていきます。仕事している気分にだけは、なるので恐ろしいと思いました。」
エクセルもパワポも分析アプリも、素晴らしいツールです。ただ、どんどん時間が過ぎていき、気がついたら夕方・・・ということが起こりえるツールでもあります。
政治家のやってる感
編集長・河上はいいます。
「”やってる感現象”として、政治家の「朝立ち」があげられます。朝立ちとは早朝の出勤時間に、政治家(主に候補者)が駅前に立ち、マイクで挨拶したり、自分と自党の政策をアピールしたりするものです。早朝の慌ただしい時間があるせいか、どれだけ興味深い話をしているつもりでも、朝立ちに聞く耳を持つ人はそれほど多くありません。」
しかし、です。
河上「SNSを見ていると、今は本当に政治の時代で、話を聞きたい人、政策に耳を傾ける人が大勢いるように感じられます。つまり、聞く耳を持った人がSNSを通じて可視化されるのです。」
「世の中には政治に興味を抱き、政策の話を聞かせてほしいと願う人がSNSに大勢いて、むしろ政策をアピールしない政治家こそ叩かれる傾向すらあります。みんな、期待をしているのは事実なのです。それなのに、政治家の朝立ちは皆スルーして、誰も聞こうとしません。」
「この差は、一体何なのか、という話になります。」と河上は指摘します。
政治家は、よく言われるように「やってる感」だけに長けた邪悪な存在なのでしょうか。それとも、やってる感にとらわれて、その穴に落ちてしまうことは、(冒頭の藤田自身も含めて)、よくある現象なのでしょうか。だとしたら、どうしたらいいのでしょうか。
ビジネスで考える「やってる感」
ビジポコの考えをまとめます。
「たとえば、ビジネスにせよ新規事業の開拓にせよ、『自分が欲しいものを作ろう』という考え方があります。それが一番近道だからです。世の中に求められるプロダクトやサービスづくりが大切で、『世の中』には自分も含まれる、という理論です。サンプル数1でいいという意見でもあり、これをn=1と呼ぶことにします。
一方、『仕事は誰かを救うものなので、新規事業はn=1ではいけない』という考え方もあります。それをn>1と呼ぶことにし、ビジポコではこちらのn>1を推していくことになりました。
たとえば、D2Cの開発を考えてみます。たまに失敗したプロダクトのオーナーが、SNSやブログなどで失敗の記録を書かれることがあります。勇気が必要なことですが、その失敗記を読んでいると、たいていの場合に、ある過ちの物語が浮かび上がって来ます。
それが、『誰かを救うためのプロダクトだったものが、いつのまにか自分を救うための道具に成り下がっていく』という恐ろしい物語です。」
自分or他者、どちらを救う?
「たいていの場合、プロダクトは『誰かを救う』ことをミッションとし、悩みに深くアプローチしようとします。それ自体は素晴らしいことであり、実際に売れていきます。しかし、失敗するプロダクトは、必ずと言って良いほど、その後よくない変化が起きます。
少し調子が悪くなると、コンサルタントに話を聞きに行く、とか、成功者のセミナーに参加する、といった行動を売り手が取り始めるのです。これがもっとも危険なサインで、いつのまにか『誰かを救うためのプロダクトだったはずが、自分を救うためのプロダクト』になってしまうのです。」
『成功した自分』という自画像に取り憑かれる・・・なんて恐ろしいことでしょうか。この状態に陥ってしまうのは、なにもD2C事業者だけではなく、政治家にも、ビジネスパーソンにも、警戒する心構えが必要です。何かアウトプットをする人が備えなければならない落とし穴ではないでしょうか。
目の前の事象がn=1に陥っていないか、立ち止まって考える必要があります。自分を救うためだけに、さらには、自分の成功物語をアピールするための仕事になってしまっていないか、客観的に考える必要があるのです。
自分を救うこと、も仕事のひとつの考え方ではあります。ただ、自分を救うだけだとどうしてもアートの世界になってしまうのです。ビジネスは、自分以外の人の役に立つことでもあります。
アートか再現性かについては、下記の記事でも触れています。
アートな仕事を抜け出し、人の役に立とう
河上は続けます。
「政治家のやってる感、分析アプリをいじって満足するときのやってる感、自分を救うための成功物語。これらはビジネスを停滞させる落とし穴です。その穴に落ちないためには、つねにn>1の、自分以外の人を救うことを考える必要があります。
そのために、デザイン思考が存在します。従来は、数字をみたり、データを見たりしていましたが、それだけでは限界がありました。そのデータ主義を超克する形で、デザイン思考は生まれています。
デザイン思考はとても簡単かつ明確な行動指針を持ちます。それが
お客さんに話を聞きに行こう
です。
自分の顧客が何を求め、なぜ買ってくれたのか。あるいはなぜ買ってくれなかったのか。聞けるシーンと聞けないシーンがあるとは思いますが、とりあえず聞いてみましょう。声をかけ、相手と向き合い、そして自分のプロダクトをより優れた存在に改良していく必要があります。」
「エクセルは仕事を効率化してくれ、パワポは思考を形にでき、クラウド型分析アプリは、思考を他者に伝えられる優れたツールです。ただ、特にリモートワークが浸透したコロナ禍では、「仕事した自分」に夢中になりがちで、他者の存在が消えてしまいます。
ビジポコでは仕事とは他者を救うものという立場を取ります。アウトプットを課されているすべての人に向けて、デザイン思考を通じて課題解決のお手伝いができればなと思っております。」
藤田も、少しずつ自己愛の罠から脱却し、他人のための仕事をするビジネスパーソンとして、エクセルやパワポや分析アプリをいじって仕事した気分になる生活から抜け出そうともがいております。