トヨタが挑む新規事業。文化背景と、ものづくりの難しさ

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こんにちは。

犯人はヤス。でお馴染みのBizpoko編集長の河上泰之です。

 

今回は、2回に分けてトヨタ自動車の新規事業はいったいどうなのか、解説していきます。

Beth社のクライアントとして、編集長自らが断続的に支援し続けること、19ヶ月。

ぶっちゃけると、僕が見ても現状はイケてないです。

 

世界最強のトヨタが本気を出して3年ほど取り組み、パッとしないのはなぜなのか。

なぜ、トヨタ以外の世界中の自動車会社が、テスラに追い越されたのか。

この謎を、自動車会社固有の「安全文化」これを理解することからはじめ、「ものづくり」の難しさを解説していきます。

本投稿では、守秘義務や機微情報の一切を抜き、公開情報のみを使いながら、順番に解説していきます。

IBMや、デロイトトーマツコンサルティングの戦略コンサルタントに、デザイン思考を教えてきた、新規事業検討のマニアからみた、トヨタの苦悩の最前線をお伝えします。

 

冒頭は、「トヨタが倒産した日」というフィクションから入り、編集長ヤスが、Beth社でどういう気持ちでトヨタを支援しているのかを簡単に共有します。

それでは、スタートです。

 

【トヨタが倒産した日】

あー疲れた。

ゴロンと床に寝っ転がり、テレビをつける。

昨日は長男の寝付きが悪く、ほとんど眠れなかった。テレワークだと、こういう時に少し休めていい。

次の打ち合わせまで15分ある。少し寝よう。

 

突然、注意音が流れた。地震か?

画面にテロップが流れる。

ートヨタ自動車、自主再建を断念。本日緊急記者会見の模様ー

CMが中断し、慌ただしくアナウンサーが捲し立てる。

 

「緊急報道です。トヨタ自動車が自主再建を断念したとの情報が入りました。通常の番組は一時中断し、速報をお伝えします。」

「ただいま入った情報によりますと、トヨタ自動車株式会社は、自主再建を断念し、中国最大手自動車の・・・」

 

なんだろう、音が耳に入らない。

いや、音は聞こえる。言葉がわからないんだ。

トヨタが?再建をだんねn……なに?

まさか、あのトヨタが?

聞き間違いか?いや、誤報か?

 

「……り返します、トヨタが自力での再建を放棄し……」

トヨタが、負けた?

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「トヨタ自、上海汽車集団傘下で再建」

「3割強融資受け入れ、4.2兆円、筆頭株主に 今日にも発表」

中国の自動車メーカー最大手、上海汽車集団(SAICモーター)が4.2兆円を投じて、トヨタ自動車の3割強の株式を取得する方向で最終調整に入った。

トヨタ自動車は、2021年、コロナショックからの反動で2020年10~12月期に過去最高の営業益を叩き出し、通期は2兆円に上方修正をしていた。

それからわずか六年。日本は、主要産業を失った。

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突然のことで驚いただろう。考えたことがあるだろうか。

日本最強の企業、トヨタが倒産する日のことを。

 

編集長ヤス。の覚悟

僕はこの妄想をして、正直に言おう。泣いた。

編集長ヤス。は、運転中にこの妄想が頭に浮かび、そして運転ができないぐらいに涙が出た。

ぼくにとってトヨタ自動車は、ある種、ものづくり大国、日本の戦艦大和なのだ。

世界最強と言われた、トヨタが、沈む。そんな日が来ることを、ぼくは拒絶する。

 

長くなったのだが、

絶対にトヨタを潰させない。その覚悟を持ち、クライアントとしてのトヨタ自動車を支援している。

今回と次回の投稿は、過激に書いているけれど、叱咤激励だ。

 

ことのきっかけは、リクルート

本当投稿では、リクルートに勤める敏腕ヘッドハンターと、トヨタ自動車の新規事業開発や、DXの現状について意見交換をした際の話を下敷きにしている。

色々あるので、当然ながら秘密保持に触れない範囲で、公開情報をもとに議論を進めた。

ハンターの質問を要約すると「トヨタの新規事業ってどうなの?」

ぼくの返答を要約すると「内容はクソ。それを愚直にできる組織がすごい」

 

ヘッドハンターの彼は、僕との議論をもとに、リクルート:トヨタ自動車間で行ったDX人材の採用についての情報交換を有意義に終えたとのことだった。

ビジポコの投稿記事は、こういう何気ない情報交換や、質問からできている。

どしどし、質問をしてほしい。

ハンターからのメッセ↓

 

 

安全を軸とした、自動車会社の文化の考察

繰り返そう。トヨタ自動車の新規事業としてローンチや発表されているものは、クソだ。

そりゃぁ自動車会社が、いきなりベンチャーみたいなキラキラしたものは作れない。

それは、文化的背景が色濃く影響している。

そのため、まずは文化的背景を理解してほしい。

全てはそこから始まる。

 

テスラの文化

世界的なキラキラ系ベンチャー、テスラの文化をみてみよう。

2019年2月の交通事故に対する訴訟記事だ。

>運転していたテスラのモデルSが街路樹に激突、炎上して死亡した。裁判での訴えによると、警官や通行人がアワンさんを救出しようとしたが、ハンドルが浮き上がらず、ドアが開けられなかったという。

>モデルSの緊急対応ガイドには外部のドアハンドルが機能しない場合、内側から開く必要があるとの記載がある。

https://www.businessinsider.jp/post-201296

モデルSは、確かに間違いなくかっこいい。

自動運転も、世界最高峰だ。

だが、事故時に外側からドアを開けられない。

記事は文字であっさり書かれているけれど、現場が壮絶な状況だったことは想像に難くない。

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人を助けようと、いつ爆発するかもしれない車に走り寄り、ドアノブに手を伸ばす。

もしかしたら、それは火傷するほどに熱かったかもしれない。

何度ノブを引こうと挑戦するも、出てこずに扉を開けられない。

車内に充満する煙。

明確に発火し、広がる炎。

外から扉にかじり付いて何度も、何度もドアを引っ掻く人を、後ろから迫った別の人間が力任せに引き剥がし、二人とも地面に転がる。

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上記の現場の描写は、あくまでも想像だ。

しかし、繰り返しになるが、事故は実際に起きている。

現実にその場に居た全員が、感じたことのない  絶望  と  喪失感  を味わったはずだ。

 

既存自動車会社、トヨタの安全文化

ー トヨタ自動車の安全技術ー

古くさく感じる一言だが、この流れで読んでホッとしないだろうか。

例えるなら、寒い日に緑茶をすすった時のように心を満たし、筋肉が弛緩したことで無意識に緊張していたことを気づかせてくれる、そんな感覚を覚えないだろうか。

我々は、日本人が日本人の感性で磨き込んできた「安全」に慣れきっていて、同じような値段で売っていれば、同程度に安全だと盲信している。

 

だが、作り手側は違う。

ものづくり企業が、人命を預かる。

 

この言葉の重みを、ご理解いただけたと思う。

これこそが、キラキラ系ベンチャーと、トヨタ自動車の着実な歩みを分ける文化的背景だ。

どちらが良い、悪いではない。

ユーザーが評価することだし、資本主義経済の中では、ルールの範囲内であるならば、どんな相手とも戦わないといけない。

悪貨は良貨を駆逐するというが、トヨタの敵は「安全」にどこまで配慮してくれるのだろうか。

少なくともトヨタが軽視することはあり得ない。

となると、硬く、そして石橋を叩いて壊して鉄筋製にするぐらい、確実にやらざるを得ない。

 

安全が複雑にする、「ものづくり」

ところで、みなさんは、タクシーに乗った時に、このドライバー運転荒いな、そう感じたことはないだろうか。僕は何度もある。

ブレーキや、同一車線内でのふらつきといった「運転」から、人は安全を感じて、安心する。

そうなのだ。

「安全」安全を組み込もうとすると、ドアノブ云々の設計だけではなく、ドライバーや同乗者の「感覚」に訴えかけるような運転を自動車にさせなければならない。

システムによる「運転」を通じて、ドライバーに「安全」を伝えるのはものすごく難しい。例えばブレーキ開始時間が遅いだけで、危険と感じる。

 

以下に、日産とスバルの事例を載せている。

ぜひyoutubeの動画で、その難しさを理解してほしい。

 

日産:止まらない危険さ(再生位置から20秒間ほど)

 

スバルは実用性を高めるための「感覚」をものすごく良く設計し、ドライバーに提供している。

スバル:再生位置から3分ほど見てほしい。運転で安心を伝える凄さがわかる

 

これが「ものづくり」だ。

 

他社事例から”学ぶ”ためには、文化とビジネス固有の難しさの理解が前提となる

本稿では、トヨタ自動車のDXと新規事業について語っていく。

Bizpokoでは、みなさんのビジネスを確実に前に進めるための、学びと気づきを提供することを目指している。

他社事例から学ぶためには、その企業が何を前提条件、絶対に満たさねばならない枠組みとして捉えているのかを理解することがとても重要だ。

前提条件を理解しないままに、報道される事例を見たところでフェンスの向こうから眺めるだけになってしまう。

重要なことは、事例として分析する企業での担当者、プレイヤーとして彼らが”何を判断基準とし、合理的な判断をくだしたのか”を追体験することだ。

そのため、長くなったが、自動車業界においてなぜ「安全」がここまで重要視されるのか、また安全をユーザーに伝える難しさを丁寧に見てきた。

人の命を預かるものづくりだからこそ、危機が起これば、ユーザーに深い絶望を与えかねない。

安全、この二文字を理解することが、自動車業界を語る上での前提となる。

これを踏まえずに、キラキラ系ベンチャー、コンサルが適当に数百枚書いたペナペナ新規事業案のような感覚で、トヨタ自動車の新規事業って辛気臭いよね、と語っても学びもなければ、意味もない。

ここまで読んでいただき、すでにご理解いただいただろう。

トヨタをはじめとする、日本企業が、世界の自動車会社が何に苦労しているのか。なぜテスラは、あんなに軽々と世界最先端を走るのか。

テスラが悪いとは言わない。僕はテスラも大好きだ。

どのメーカーが良い、悪いではなく、各社とも独自の「安全哲学」を持ち、その哲学を「ものづくり」として3万点の部品と膨大なコードを組み込んだ物理的な製品に落とし込んでいる。

自動車とはそういうビジネスだ。

 

次回予告

 

自動運転

 

この戦域に対して、旧来の自動車メーカー各社が、お互い牽制しながら、新興のベンチャーと決死の攻防をしている。

その最中に、トヨタ自動車は、Woven Cityを発表した。

トヨタはいま、何を目指しているのか。

自動運転だけではない、幅をもった戦いをなぜしているのかを見ていこう。

幅の広さは、今の状況で良いのか。まだ狭いのか、広すぎるのか。

明日は、そんな話をどどける。

 

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ではまた、次の投稿でお会いしましょう。またね!

編集長ヤス。

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