奈良県三宅町向け 講演会「DXとは なんなのか?」

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こんにちは。

犯人はヤス。でお馴染みのBizpoko編集長の河上泰之です。

 

本投稿は昨年度行っていた、 奈良県三宅町の行政の皆さん向けのDXアドバイザーとしての講演会の書き起こしです。30分の講演会でしたが、DXの本質をストレートに語ったため、その後、0円でPoCを開始するまでに職員の皆さんを動かすことができました。

 

DXの難しさは「DXで目指すべきことが組織全体で合意されないこと」に尽きます。

例えるなら、「日本の山に登ろうぜ!」とだけ約束をして、社員全員が同じ山に登るのと似ています。言わずもがな、そんなことは無理ですよね。

 

では、どうしたらいいのか。

簡単に言えば、全員でDXとは何か、共通の理解ができれば良いわけです。

例えば、「富士山に登る」とゴールをはっきり共有できれば、一足飛びに進むことができます。

 

実際に、講演会からわずか2ヶ月間で、三宅町の役場の皆さんは0円でPoCを開始しました。

この秘密は、ゴールを共有できたことと、ググる事なくあらゆる物事を外注する文化を廃止して自らが手を動かし、アプリやツールの利用を始めたことにあります。

 

実際にこなしたスケジュール↓

・1月中旬にリアルタイムと録画で全職員が講演会*を視聴。

・2月下旬までに、84個の業務課題を洗い出し、173個の解決策を議論。各課で取り組む課題の選定と、仮の解決策と、使えそうなアプリやシステムの選定を終了。

・3月中旬までに、通常業務やコロナ対応を行いつつ、産業管理課が先行して、道路管理に関するLINE受付の仮運用を開始。

 

三宅町の森田町長には「今後、国から予算がつきITシステムベンダーが大挙してくることは見えている。導入費用は国からの予算配分で賄えても、その後の保守費用は絶対に払いきれない。そういう中で、DXは何かを全員で理解し、最小の手間で最大の効果を得るために、良い学びとなった」との旨を、最終報告会で語っていただきました。

 

本投稿では、この快進撃のきっかけとなった講演会の内容を当時の資料をもとに書き起こしました。

 

受講者アンケートを一部抜粋します。

【アンケートより抜粋】

  • 講演では「よかれと思って作ったものは実は無駄だらけ」「これを実現するために何か使えないか、もしかしたらDXはいらないかもしれない」とのくだり。また、「ユーザー側でシステムを使ってみる」ことが強く印象にあります。
  • 住民が電子申請を希望するからシステムを構築するのではなく、こんな仕組みを作ったから利用されませんか?の考えでDXをすすめ、もっと業務の効率化をすすめていきたい。
  • DX研修を受けて、全てではないが、将来的に何かをしていく必要があるとつくづく思ったことがプラスになった反面、意識と人材と組織によってDXを進めることがかなりの労力と時間が必要であると思った。

この講演はきっかけに過ぎず、DXは自ら手を動かすことが重要だとの決意と意識が伝わってきます。

 

繰り返しになりますが、DXを成功させるためには、まずは全員で向かうべきゴールを整えることが重要です。

以下の講演録が、三宅町の皆さんに勇気を与え現実を動かしたように、少しでも日本の役に立つことを願います。

 

それでは、スタートです。

もくじ

DXとはなんなのか?

今日はですね、DXっていったい何なのかというところ。本質をお伝えしていきます。

本日は録画をしていますので、他の仕事をされていて、ちょっと今この時間は無理だったと言う方も、ぜひ後ほど見て頂ければなと思っております。

 

DXが含む4つのキーワード

DX、デジタルトランスフォーメーションという言葉、実は大きく4つのキーワードが含まれています。

こういった4つのキーワードがあるので、いろんなプレイヤーがいり乱れていて、ものすごく分かりにくくなっている、というのが現状です。

 

単純にデジタルを使えば良いというわけでもないですし、業務をどう変えていくのかというだけでもない。

また「デザイン」という謎のカタカナも出る。新規事業も出てくる。

これらが、本当に複雑に絡み合っているものが、DXになります。

 

ですので、この4つのキーワードがどういう関係になっているのか、それを本日紐解いていきます。

最後には、「あーなるほど、そういうことなんだね」というふうに、DX:デジタルトランスフォーメーションという言葉をご理解頂くことが、本日のゴールです。

 

DXの提唱者:エリック・ストルターマン氏

もともと、「デジタルトランスフォーメーション」という言葉を提唱したのは、このエリック・ストルターマンという方です。

2004年に言いはじめた概念は、「すべての人々の暮らしをデジタル技術で変革していくこと」なんだと。

日本ではこの2004年がどんな時代だったかというと、だんだんとデジタルが、学校や、世の中に普及しはじめていた時期です。パソコンで言うと、2000年問題を乗り越え、大きな事故が起きずによかったと言い合っていました。

まだiPhoneは発売されていません。日本で言うところの、ガラケーでこう皆さん、写メールとか使って、パシャパシャ写真撮ってそういうのでお互い送りあっても楽しいね、とやっていた。そんな時期です。

そういう時に出てきた概念になります。

じゃあ2004年じゃなくて、最近出てきたのはいったい何なのか?という疑問に行き当たります。

 

経済産業省:最近の日本でのDXの火付け役

 

 

今はやりのDX、日本国内で火を付け燃え上がらせたのは、この経済産業省の和泉さんです。「日本国内では全く、デジタルの活用が進まない。このままじゃヤバイ」と、デジタルトランスフォーメーション レポート〜ITシステム2025年の崖〜を発表しました。

これで日本中に衝撃が走ったわけです。

「これまでも民間はIT投資をやってきたけど、全くダメ」

「いまのままだと、本当に崖から落ちるように、日本経済が没落する」というようなことが書かれていました。もし未読の方がいましたら、ぜひ一度はレポートを読んでみてください。

 

経済産業省の語るDXの定義を読み解く

長くなりましたが、ここからが本論です。DXとはなんなのか、深くみていきましょう。

 

まず、経済産業省の定義をそのまま読んでみます。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」こう書かれています。

 

正直、わかりにくい文章です。

そこで、単語や表現をそのまま使い、並び替えて接続詞を補ってみます。

 

経産省のDXの定義:新規事業で、競合他社をブチのめせ

並び替えたのがこちらです。

まず目的は、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応しつつ、競争上の優位性を確立する」。

これがDXを行う目的です。

この目的を達成するための手段として、「顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに」、「データとデジタル技術を活用して、業務そのものや組織、プロセス、企業文化、風土変革する」。

 

どうでしょうか。

文章の順序を入れ替えて、目的と手段を整理しただけですが、スッキリしたと思います。

 

上から順番に解説をしていきます。

まず目的部分、上段の2行は、競争環境が変わる中でも、日本企業は他社に勝つことを目指せという激励です。他社に勝つこと、これがDXの目的です。

間違ってもFAXを無くしたり、ハンコをなくすことは目的ではありません。脱ハンコという話を聞き、それがDXか?という違和感を感じるのは正しい感覚です。

 

では、どうやって競合に勝つのか?

それが真ん中の2行です。

ここでは、売るものや、売り方を、お客様が買うものに変えることが重要だと言っています。今のままやっていてもダメです、ということを言っているわけですね。

 

先を続けます。

最後の2行は、売るものや、売り方が変わるのだから、当然、業務のやり方も変わる。このご時世なのだから、ITやデジタルは当然のように使ってくださいな。ということを言っています。

 

さて、冒頭お伝えしていた4つのキーワードが出てきています。

売り物や売り方を変えよう、という部分。

これ単純に言えば、新規事業をやれということです。

そして新規事業に付随して、昨今よく話題にのぼるのが「デザイン」というこの謎のカタカナです。

この「デザイン」は後ほどご説明するんですが、簡単に言えば「役に立つこと、これを徹底的に追求する」という意味合いで、ビジネスでは使われています

スケッチや絵がきれいに描けるとか、素晴らしい彫刻が作れるとかっていうわけではなくて、「役に立つ」という意味でデザインという言葉が使われています

 

下段部分、この業務を変えていくというところ。

業務改革や、職場で働いている方々にとって役に立つものとは何か?その他業務をうまく回すために必要なITは何かを考えるのだと、指摘しています。

 

この「新規事業」と「業務改革」、「デザイン」、「IT」いった4つが、DX実現のためのキーワードです。

 

まとめると、「競合に勝ち生き残るために、新規事業と、それに基づく業務改革を、人の役に立つ(デザイン)ことを常に意識しながら、ITをうまく使って行うべし」。これがDXの定義です。

 

世の中、いろんな業者が自社の都合の良いように解釈したDXの定義を言っているんですけれど、それは金儲けのための方便です。

そこで私は、参考にして大丈夫そうなところとして、経済産業省の定義を読みといてお伝えしています。

 

ではここから先では、まず新規事業・デザイン(真ん中の段落)の細部を見ていきましょう。

 

「デザイン」抜きには語れない。21世紀の新規事業

まず、売るモノや、売り方をお客様が買うものに変えていく。

この新規事業や、デザインとは何かというところを説明したいと思います。

 

ヒトは、役に立たないものは買わない

仕事をする人は皆、製品やサービスを提供します。私自身も含め民間企業もそうですし、みなさま行政もサービスを提供し、買ってもらっています。

この、「買う」。

購入してもらうための大前提として、まず1つ目。

ヒトは役に立たないものは買わないのです。すごく本質的な話ですし、言われてみればそうだということなのですが、これがすごく大事です。

 

役に立たないものは買ってもらえないので、当たり前ですが、皆さん喜ばれるものを作ろうとしたり、役に立つものを作ろうとするのですが、なかなかうまくいかない。

うまくいかないので、「デザイン」がビジネスで使われるようになってきているのです。

 

役に立たないとは、どういうことか。

面白い写真を見ていきましょう。

 

デザインが悪い:役に立たない、使えない

我々はよく、「デザインが悪い」って言うんですけど、例えばこういう表示を見た時に言います。

 

この看板を見て、101号室が右にあるのか、左にあるのか。ぱっと見てよくわからないですよね。

こういうのを「役に立たない」「デザインが悪い」と表現します。

いくつか、デザインが悪い例を見せますね。

 

デザインが悪い 蛇口

節水しすぎてしまい、水がちょろちょろしか出ず、シンクに落ちないのでどんどん汚くなってしまう。これ日本でも見かけますよね。

デザインが悪いですね。笑

 

さらに、デザインが悪い 乾燥機

手を乾かすための機械ですが、これ縦に2つに並べて、何の意味があるんだと。笑

全然役に立たないですよね。これ1個でいいじゃないみたいな。

人間は、こういう本当に役にたたない物や状況を作ってしまいがちなんです。

まだまだ例があります。

 

ちょーデザインが悪い セブンイレブンのコーヒーマシン

コーヒーが飲みたいと思ってコンビニへ。

左側がもともと本部から配られた機械。これはサイズ表記に「R」と「L」しか書いていない。これだけだと実際に買われたお客様がわからないと言ってレジに戻ってきてしまう。

会計が終わった後に戻って来るので、最悪の場合は、他の方の会計中に「ボタンどっち?」と割り込んでくる。会計中のお客さんは「はぁ?」となるし、レジを打っている方も「ちょっと待ってよ!」となります。

想像するだけで、地獄、ですよね。

 

そこで、現場の創意工夫として、右側の写真のようにシールを貼って対応していました。

ここまでくると、「デザインの敗北」です。

 

これは、顧客がRとLのどちらが大きいのかわかるだろう、という憶測で作ってしまったから発生した事故です。

ただ、日本人でご高齢の方も使うことを思えば、英語は使わずに日本語で「ふつう」「おおきい」が正解ですよね。

 

神は細部に宿ると言いますが、見てきたように本当に人の役に立つものっていうのを作っていこうとすると実はすごく大変なのです。

 

世界クラスのデザインが良い事例

Google、Appleからそれぞれ紹介します。

 

Google Chromebook

 

Googleがスマホの延長上でパソコンを作って売り始めたのですが、パソコンってまあ基本マイクロソフトさんじゃないですか?

彼らが作っているものも結構微妙ですよね。クルクル回るマークを永遠見させられながら、全く当てにならない残り時間にイライラさせられる。

こういうのは、今までのノートパソコンとか古いものだと結構見てきましたよね。

 

一方で、我々が毎日使っているスマホ。

スマホでは、例えば「問題が発生して再起動する必要があります」みたいな警告は出てこないですよね。

仕組みとしては、本当に小型のPCです。それを、いま、ご老人たちもなんとなく使えている。パソコンで電話ができるとか、ブラウザを使ってものを調べる、ということができるのは、デジタル・デバイスが人間にとって使い勝手がいいものにどんどん進化しているからです。

こういう役に立つものを、デザインが良いと言います。

 

世界最強のAppleのデザインの良さ

 

デザインの良さで世界最強は、間違いなくAppleです。

15秒の広告に、そのデザインの良さを切り出しています。まずは15秒の広告を、見てください。

 

開封して使う前のほんの一瞬でさえ、お客さまの役に立ち、豊かな体験を届けることができます。

今冒、頭のところでシールを剥がしている時のピリピリって音が皆さん、伝わりましたか?

この音は、実際にiPhoneに貼られたシールを取り外すときに鳴る音です。iPhoneユーザーにはこの瞬間が好きなひと、結構います。

 

これは1番最初にiPhoneを箱から出して使うときに、蓋を開けて、あぁ、蓋を開けるときにもワクワクの仕掛けがあるのですがそれが終わり、端末を手に取ったときに、わくわく感を最高に高めるためにはどうしたらいいか?

そこで、表面の薄いシールを剥がす時に若干音がでるような、わざわざ硬い物を使っているのです。

あのピリピリっていう特有の音をわざわざ広告で、もう1回思い出してもらうっていう、そういう広告なのですけど、そういうこと1つを取っても実は役に立つものや、顧客に喜ばれるものを考え、提供しています。

 

DXも、新規事業も、デザインが悪ければ失敗します

デザインの力の凄さ、買ってくれる人の役に立つことを、いかに追求できるかというのが、成功の鍵になると言うのが、DXの中でのデザインです。

 

ただ、話はそう簡単ではなく・・・

 

良かれと思って作っても、実は無駄だらけ

突然細い資料ですみません。笑

みんな、お客さまの役に立つことを目指し、良かれと思って製品やサービスを開発しています。でも、良かれと思って心を込めてやっているにも関わらず、実は無駄だらけということが世の中わかってきています。

例えば新規事業をやり、お客さんの顔を見て課題を知り、良かれと思ってサービスをローンチしているのに、お客さんから「え、こんなの要らないよ」って言われちゃって終わってしまうということがいっぱいあります。

 

左のグラフは、何兆円もお金を集めて新規事業を進める、アメリカのシリコンバレーで、新規事業が失敗する理由を調べたものです。あれだけ新規事業をやっていても、顧客にとって役に立たない、価値がないものを思わず市場に出してしまい失敗しする。これが失敗の1番の理由だと、調査結果が上がっています。

 

で、もう1つ。

私も昔IBMと言う会社で、お客様にシステムを作っていましたけど、作ったシステムには、実際には使わない機能いっぱいあります。調査では、実に開発した機能のうち64%は不要だと言われています。

こうやってわかっていても、いらないものを作ってしまうのが、人間です。

 

 

ムダなものを作る余裕も、役に立たないものを提供して怒られることも避けたい。

そう考える人ほど、役に立つこと、デザインの良さにこだわります。これが今までやっていたこととはちょっと違う点です。

 

先日も、三宅町の皆さんと業務へのLINE導入の是非を議論する中で、メインの利用者はご老人であること、老人相手の場合はLINEでサービス提供をしても、ご老人が慣れていなければ、事実上、開発したものが全て役に立たなくなる。

なので、ちょっと的外れな検討なんじゃないか? みたいなことをお話しさせていただいたのは、まさにこういった観点なのです。

 

ムダを削減するには、徹底的にユーザーの役に立つ=最高のデザインにこだわる

お客様の役に立つことを徹底的にこだわっていく。

徹底的にこだわるためには、使う側の人たちの目線に立つということに限ります。

 

この左側の方の図で描いてあるのですが、若い夫婦が赤ちゃん用にクルクル回るおもちゃを買ってあげる。親から見ると、可愛いですよね。

でも、子供の目線から見ると、なんだこれ、という話なのです。

 

この様にして、使う側の立場に立たないと見えないことっていっぱいあるんですね。

例えばこのデザインという概念を今、特許庁の人たちも一生懸命取り組んで、普及させようとしています。でも難しいわけです。

 

そしてDXや、新規事業やイノベーションを起こすために、時間とコストを最小化するためには、顧客・ユーザーにとって価値があることは何か、ここから考え始めることが重要です。

儲かること、行政でいうとコストカットできることから考え始めたり、IT屋がささやく「こんなテクノロジーであたらしい世界が実現できます!」と言ってくる内容を真剣に考えても、住民、顧客・ユーザーにとって価値がなければ打ち合わせ時間さえも無駄です。

 

例えば、「行政手続きがスマホでできます。人件費を下げられるのでコストカットができます」というのは、「実現できる&儲かる」の組み合わせでしかない。

これが住民の役に立つのか。

 

例えば、行政側の論理で、老人が主に行う手続きもスマホでできるようするのは、構わない。

ただし役に立つためには、スマホでの登録の仕方を教えなければならない。こういうサービスの使い方を教えるということを、カスタマーサクセスという名前で始まっています。

そのため行政で進めても問題はありません。

 

重要なことは、住民の役に立つためには、どこまで、どんな細部にこだわり進めていくか。

デザインのいい行政サービスを作ることに、こだわりつづけることです。

 

特許庁の生々しい悩み

あなたが何かを発明して、特許を取ろうと申請書を出したとしましょう。

ウキウキしながら一生懸命に紙を書き、提出して半年。

ある日特許庁から手紙が届きます。

「拒絶理由通知」

 

出願内容に新規制がないので今のままじゃ厳しいよ、という趣旨なのですが、「拒絶」という単語でいいのか。

この「拒絶でいいのか」こそが、特許庁の悩みなわけです。

 

一生懸命、世界にないものを開発した。

その権利を守ろうと思っているのに、そんな気持ちの人に「拒絶」で応える。これが許されるのかと。

細部にこだわり、役に立つ、デザインを極めようとした時にはどんな単語が適切なのか。そういうことを、真剣に考えています。

 

金融庁の生々しい悩み

独立後に、研修を提供させていただいたお客様に、金融庁がいます。

2000万円問題がありましたが、彼らは国民にどう伝えたら、資産形成をしてもらえるのかを真剣に考えていました。

正論として、数字で示した2000万円問題。

正しいことを、正しく数字で伝えるだけでは、人の心もマスコミの論調も変えられないという現実と、彼らは戦っています。

 

きちんとした投資をしてもらうためには、どういうコミュニケーションをしていけばいいのか。

この2000万円問題を国民に乗り越えてもらうために、我々金融庁には何ができるのか?どうやったら国民の役に立つのかっていうところを徹底的にこだわり、業務として進めようとしています。

 

業務のやり方を変えるはなし

ここで一旦、話が変わります。経済産業省のDXの定義を読み変えたページに戻ります。

次の話題は、この業務のやり方を変えていかなければいけない、という部分です。

 

最重要ポイント:手段の選択肢はいくつもあるが、手段によって実現できる体験が限定される

住民に提供する新しい行政サービスや、新しい事業を実現する手段の選択肢はいくつもありますが、手段によって実現できる体験が限定されるということです。

実現方法によって、提供される新しい体験を受け取った人が、役に立っているという風に感じるか、役に立たないと感じるかという部分が変わってきてしまう意識しなければならない、大きな論点になります。

 

これだけだと分かりにくいので、ポンチ例でご説明します。

 

 

白米を食べる、ための手段

例えばなのですが、ただ単に白いご飯を食べたいとだけ言われたら、実現方法はいくつもありますよね。

冷凍ご飯をチンしてもいいですし、サトウのご飯をチンでもいい。

電気釜で炊くのもいいですし、昔ながらの土鍋で炊くのもいい。

 

では、要望が変わったらどうなるのか。

見てみましょう。

 

1秒でも早く白米を食べたい、を叶える手段

要望が、1秒でも早く白米を食べたい、と変わったとしましょう。

住民さんが来て「お腹が空いて死にそうです。1秒でも早く白米を・・・お、お腹がぁ〜」。こうお願いしてきたら、こちらも1秒でも早く助けてあげたくなりますよね。

 

そんな時に、米を研いで1時間浸水して、土鍋でじっくりと・・・というのはそぐわないですよね。

こういう場合は、冷凍ご飯や、サトウのご飯を選択します。

 

実現手段が、提供できる体験を縛る

もう少し例を見ていきましょう。

 

日本文化を楽しむために白米を食べたい、を叶える手段

今度は、日本文化を楽しむために白米を食べたい、こう要望されたらどうでしょうか。

例えば外国からいらっしゃったお客様を招いて、本当に我々日本人の文化を伝えようとすると、冷凍のご飯じゃあ限界がありますよね。

一番いいのは、藁の火を使って土鍋で炊いたご飯ですよね。パチパチとおこげが出来る音を聞いたら感動するでしょう。

 

白米からの学び:体験を先に考え、次に実現手段を考える

ここでの学びは、「どんな体験を提供したいのか」ということを判断軸にしながら、どういう実現方法があるのか、どれが最適なのかをきちんと選ぶことがものすごく大切だということです。

実現手段によって提供出来る体験が縛られてしまうので、間違っても先に実現手段を決めてはダメです

 

今は1つの体験について、簡単に説明をしました。

さて、企業が製品を提供するときや、役所のみなさんが行政サービスを提供する時は少し事情が変わります。

 

あなたの勤める会社・組織こそが実現手段であり、DXで変えなければならないもの

サービスを提供する手段、それは組織です。

組織とは何かというと、ヒトを組み合わせたチームに、ITシステムを組み合わせた”仕組み”に他なりません。

さて重要なことは、提供する体験が変われば、実現手段である会社や組織も変わる必要があるということです。

自分たちが組織として、どのような体験をお客さん、皆さんの場合は住民の皆さんに提供していくのかを最初に考える。それが決まれば次は組織を変えるのです。

特に、新しい体験を提供するのであれば、その体験を正しく発揮できるように、部門編成を変え、IT技術も導入していくことが大切です。

そしてもう一つ、重要なことがあります。それはどの程度、組織を変えるのかということです。

 

全くの別物へ変わる腹づもりが必要

デジタル・トランスフォーメーションの、トランスフォーメーション。これは英語ですが、元々の言葉の意味は、生物学用語の変態です。変態とは、例えば芋虫が蝶々に変わるようなことを意味します。

蛹を作り、一度体をドロドロに溶かして、そこから組み立て直していく。タンパク質という意味では同じですが、外見は全く違うものに変わっていく。それほどに激しく変わることが「トランスフォーメーション」という言葉の意味です。

 

電算室を、デジタル部署と名前を変えるような、小手先の対応をしろと言われているわけではありません。全く違うものに変わる、それぐらいのことが求められているということを認識し、覚悟してください。

このようにして、全く違うものになることを目指すのには理由があります。

 

それは、過去に住民に提供してきた体験を、最も効率的に提供するための構造が今の組織だからです。

白米を例にお伝えしたように、同じ白米の提供でも、1秒でも早く提供するときと文化を伝えるためでは、実現手段が冷凍ご飯の解凍と、土鍋でご飯を炊くと全く異なりました

提供したい体験は、白米の提供という意味では同じです。でも、そのニュアンスが変わるだけで、実現方法は全く別物に変える必要があります

住民にも住みやすい街を提供する、という意味では過去も未来も同じかも知れません。でも、ニュアンスが変わる時には、実現手段である役所の姿は大きく変えるべきです。組織の変更が、住民へのサービス提供のために必須になるからです

 

ただし、いきなり大きく変える必要はありません

蝶々も1〜2分でパッと変わるわけではないですよね。栄養をとためて、場所を確保し、まゆを作って引きこもり、羽化するときもゆっくりです。

大きな変化には時間がかかるものです。着実に前に進めていけば、時間がかかった分、大きく変わることができます

このようなことを頭の片隅におきながら、新しい住民サービスの検討を進めていくことが非常に重要です。いまのままならできないことも、出来る手段を探して組織が変われば、必ず実現できます

 

ITベンダーとの付き合い方

 

さて、最後にITの話を少しして、終わりにしようと思います。

 

日本のIT導入や、DXは全然進まないよねという話をよく耳にすると思います。なぜ進まないのか。実は経済産業省では既に答えを出しています。

 

経産省が見つけたITベンダーにとっての不都合な真実

経産省が発行しているガイダンスの冒頭に書かれています。重要なので一度読みます。

「デジタル部門を設置するなどの取り組みが見られるものの、実際のビジネス変革にはつながっていないという状況が多くの日本企業に見られる」。

その理由として1つ目に挙げられている理由が「顧客視点でどのような価値を創出するか、ビジョンが明確でない」ということです。

そしてこう続きます。「AIを使ってやれの号令で、Howから入ってしまっていることにある。」。

これまで皆さんが見てきたことですね。冷凍ご飯をIT屋から仕入れて、それで終わっているということです。DXとは、買ってくればそれで終わるようなものではないんですね。

 

でも不思議ではないですか。

日本には、立派なITベンダーが複数があります。NTTデータ、NEC、日立、富士通といった日系企業のほか、私が教えていたIBMやアクセンチュアといった外資系にも優秀な企業があります。そして、彼らは数千万円〜数十億円を当たり前の顔をして請求してきます。

彼らにとっての不都合な真実とは、まさにここにあります。

高い金を取るだけとって、全くもって役に立たない。DXで頼れる存在ではない、ということです。河上個人の感想では、一番役に立つのはアクセンチュア、2番目にIBMです。日系は、まず君たち自身が変わってから出直してください、という状況です。

唯一、富士通は自身が変わることなく日本の役に立つことはできないと公言しているので、少しは期待できるでしょうが、あと何年かかることか。

 

ただし、責任の全てが彼らにあるわけではありません。

彼らが全力を尽くして仕事をしてもDXを実現できないのには、理由があります。そしてそれを直視して対応しなければ、皆さんの町が消えてなくなったり、企業では倒産に追い込まれることになります。

 

諸悪の根源は、過去の慣習

皆さんにとっての不都合な真実を説明していきます。

重要なので一度読みます。「過去の慣習が原因で勘違いしているが、そもそもDXを実現できるベンダーは存在しない。なので、自分たちでやるしかない」。

ましだとお伝えしたIBMにしろアクセンチュアにしろ、DXを実現できるベンダーなんてこの世に存在しない、というのが私の正直な意見です。組織に責任を持つのは皆さんです。皆さんが丸投げをして、全てをやってくれるヒーローはこの世に存在しません

 

そのため、発注者である皆さんが責任をもってどんな体験を提供したいかみたいな部分も含み、全てを皆さんがコントロールして進めていくしかありません。

でも、今の日本の、少なくとも民間企業のマインドは変わりきっていないのです。誰かに発注すれば、やってもらえる。未来の成功をお金で買えると思っているのが現状です。そしてそれではうまくいかない、ということが明確になっており、経産省がレポートにまとめているわけです。

なぜこんな隘路にはまったのか。その構造を簡単に見てみましょう。

 

過去の悪癖と、成功者が歩む正しい姿

上側が過去のIT開発の進め方です。実現したい部分、これを「要件定義」と呼び、原則として発注者が行うべき内容です。要件が決まるので、実現手段として必要なITが決まり、それを売っているパッケージベンダーや、より細かい部分を決めていくためにコンサルを入れて彼らに作らせたりします。

原則として発注者が行うべきと伝えた要件定義を、残念ながらITコンサルタントに発注してきたのが日本企業の慣習です。

私も要件定義をお客さんの代わりにやってきました。業務のヒアリングをし、要件定義書を作成してお客さんに報告して承認をもらう。そういうことやってきました。

でも、自分社に必要なものは何かを、外部企業の力を使わなければ明確にできないというのは、こんなことは世界的には異例ですこうやって何十年も、ITに真面目に向き合ってこなかったツケをいま総決算していると思ってください。ここで整理し切れば生き残ります。そうでなければ、消えます

 

さて、DXは他社との競争に勝つことを最大の目的とした、新規事業だという話をしてきました。簡単に言えばここに書いた通り、「金になる新たな顧客体験」が実現したいことです。

それを実現するための手段として、ITと組織と人の能力があります。

このお金儲けの部分、これまで話してきたITを使うユーザーや、皆さんの場合は住民が笑顔になる方法をIT屋さんに「考えて教えてよ」と任せることそのものが無理なのです。

儲かるのなら自分でやりますからという単純な理由ではなく、そもそもIT屋からすれば顧客が望むものを作って、使えるように届けることまでが職責の範囲だからです

 

例えば、パッケージベンダーたちは、自社の商材を売ることまでが職責です。ツールを売るために多少の手を広げることはあります。ただしツールを導入した後に、新しく引っ越してきてくれた住民さんの、さらにその子供が地域を出ていくまでの数十年、地域に責任を持つわけではありません。あくまでも、ツールを使い続けられるようにすることまでが職責範囲であり、住民に責任を持つのは自治体の皆さんです。

 

そのためこれまで話してきたように、住民の「役に立つ」とはどういうことなのかを考え、これまで提供してきた以上の体験とは何かを探し続け、それを実現する手段を考え、必要な組織を作り、必要なITをかき集めて提供していく。これを愚直に行う責任を持つのは発注者である皆さんです。

DXは買ってくればそれで終わる、というものではありません。提案されて、雰囲気がいいからお金払おうというのではうまく行きません。DXを成功させるためには考えなければならない。これが今、日本全体がDX実現のために乗り越えなければならない山であり、実現が難しい最大の理由です。

最後に、考える順序を簡単に整理して、終わりにしようと思います。

 

DXを成功させるための思考順序とは?

DXは、経産省の発表後にIT屋たちが手持ちのツールを売るために散々広告を打ってきました

彼らはツールを売ることが仕事ですので「このITツールを導入するとこんなことができます!」ということを散々話してきました。

つまり物事を考える順序が、道具ありきでどんな体験を提供するかを考えるという順序でした。冷凍ご飯を売ろうとするために、冷凍ご飯でできることをワークショップで一緒に考えましょう、というようなものです。これでは、うまく行きません

だから経産省が「顧客視点でどのような価値を創出するか、ビジョンが明確でない」「AIを使ってやれの号令で、Howから入ってしまっている」と指摘するのです。皆さんは、あまりに広告を鵜呑みにしすぎてしまっていたのです。

 

そうではなく、本質的に成功するための思考順序というのは、こんなことを実現したい、こういう体験を住民に提供したいということを決め、それを実現するために何を使えばいいかということを考えていきます。

極論すると、最新のITを使わなくても、業務の手順を変えてしまうだけでうまくいくかも知れない。そういう可能性も含めながら実現手段を真面目に検討していくことが必要です。そしてこれは簡単には答えは出ません。なので、考え続ける、思考の持久力を養うことが必要です。

 

例えば先日の質問にあった、年末調整の資料確認が、量が多く、期間も限られていて大変だという話。これを解消するためにITツールを入れるという選択肢もあります。

一方で、昨年確認した内容をコピーして配布し、変更部分のみ赤ペンで修正して貰えば確認すべき項目数は、1名あたり数分の1にまで減り、人数が100名いれば業務工数は数百分の1まで減らせます。このようにして工数を削減して職員の手が空けば、新しいことに着手したり、考える時間が生まれます。

これは別に、新しいITツールを購入しなくてもできることです。「DXをしよう、問題がある、CMでみたITベンターを呼ぼう」これでは、負け組に一直線です。

 

業務のちょっとした見直しだけでは、DXが実現できたとは言い切れません。しかし、蝶々の例でお伝えしたような、蛹を作る場所を探すための1つのことをやったぐらいのインパクトはあります。

こういう細かいことを積み重ねて、時間を生み出しながら、次の新しい体験を考えて、実行していくことが重要です。そうして住民と向き合い続け、住民それぞれが「三宅町に住んで良かった」「かっこいい三宅」と誇れるように町を変え続けていくことが大切です。

皆さんならできます。まずは3月末まで、一緒に走っていきましょう。

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はい、講義録はここまでとなります。

どうでしょうか。少しでも役に立てたなら幸いです。

通常は2時間ぐらいかけて話す内容を30分に圧縮しましたが、濃くなった分、頭に染み込みにくいかもしれません。そんな時は、何度か読み直してもらえると嬉しいです。不明部分はコメントや質問をください。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。そんな素敵なあなたに、1つお願いがあります。

この投稿を読んで面白かった!役に立った!という方は、ぜひコメントをつけてSNSでシェアをしてください。そうやって拡散してもらえると、”困っていることにすら気がついていない人”にまで届きます。

Googleは困っていて検索しないと効果が出ません。つまり、困っていることにすら気がつかない人はずっと不幸なままになってしまう。この、Googleの限界を越えるには、あなたの協力が必要です

ぜひぜひ、よろしくお願いします!!

 

ではまた、次の投稿でお会いしましょう。またね!

編集長ヤス。

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