
相談室にやってきた質問をビジポコ編集長に解いてもらおう!のコーナーです。
ご相談をいただきました。
今度の相談者は、静岡県静岡市のうなぎ屋の女将・吉田様からです。
「うなぎ!」と色めき立つ編集部。
静岡県はウナギが有名。美味しく、客単価も高そうで、コロナでも売上はそれほど落ちてないと、吉田さんは言います。もともと、職人だったご主人が事情で仕事ができなくなり、女将さんが職人になって店を回しているという、バイタリティの持ち主。
女将さんが考えた初期プラン・お悩みは以下の通り。
- 女将さんが職人として店を回しているが、仕事の比率が大きくなり大変。どうしたら人に任せて店が回るか。
- うなぎ職人育成スクールをやってみたい!「さばき」と「焼き」は教えられるが、ビジネスとして成り立つかな?
- 卒業生相手にフランチャイズするのはどうだろう?
- 自社サイト(ネットショップ)の売上も伸ばしたい!今は月10万円ほどの売上。
さて、デザイン思考で編集長・河上はどう答えるのでしょうか・・・?
今回のビジポコ相談室は、「うなぎ屋さんの新規事業」をポコッとしてまいります。
もくじ
うなぎ屋さんの商売ってどんなの?
静岡県静岡市にお店を持つ『かん吉清水店』の女将さんである吉田さん。
実は、うなぎ屋さんは「悪くない商売だと思うんです」と吉田さんはいいます。なぜなら、コロナ禍でも売上が落ちず、また客単価も高いですし、何より回転も早くテキパキとみなさん食べてはお店を後にします。さらには、廃棄物もほとんどでなくてロスがほぼないですし、骨や頭はタレにでき、さばいたうなぎは、冷蔵庫で1日ぐらいなら置いておけます。
ネットショップを立ち上げたところ、特に宣伝もしてないのに、ちらほら売れていったといいます。うなぎは夏が繁忙期(平賀源内が作った人工的なブームだそう)。 2020年にたまたまテレビの取材が3度あり、それがご縁なのかネットショップでは月10万円ぐらいの売上があります。また、6月も父の日需要で好調。
「売上が右肩に向けて上がるが、また下がると。その右肩に上がったときの“歩留まり“をキープするのが大事なんじゃないでしょうか」と編集長ヤスの指摘です。一度買ってくれた人に、ファンになってもらって、定期的に買ってもらうには何ができるか、ネットショップはまずそこからスタートです。
贈答用に使われるうなぎをリピートしてもらうには?
女将の吉田さんがいうには、「贈答用じゃないか」とのこと。理由として、オーダーした人と、送り先が違うことが多いため。一度来店してくれた人が、買ってくれたプレゼントとしての需要があるのではないかと。加えて、糖質が少ない白焼きが人気なのも、ネットショップを始めてからの発見だったそうです。
「プレゼントの際に、1分で話せる内容を、サイトの商品説明につけてはどうか」
とヤスはいいます。プレゼントをすると、贈った時か、お礼で連絡をいただいたときに必ず会話が発生します。そういうときに、プレゼントした人が、”ちょっと話せる内容”を400文字ぐらいで書いたらどうだろうか、というのです。
例えば、対面でお土産を渡したときのことを想像してみてください。おもむろにお土産を渡すと、受け取った方は笑顔で「これは?」と尋ねてくることが思い浮かびます。
こういったことは、ネットショップを通じてプレゼントするときも同じです。「これは?」と尋ねられたときにできる小粋な説明もミニプレゼントとして一緒に渡せるようにしてあげる。そうすることで、”プレゼントする体験”を高められないだろうか、とヤスはいうのです。
続けて、「お客さんに聞いてみましょう」
と河上はデザイン思考を吉田さんにお伝えしました。自分たちで考えるより、買ってくれている方に不自然じゃない形で聞いてみるのです。考えるための材料が、「購入者と送り先が違うから、プレゼントではないだろうか」という仮説だけでは不十分だというのです。
不十分な情報をもとに、あーでもない、こーでもない、と悩むのであれば、ご購入いただいたお客様と直接会話して、お話を伺いましょう、編集長ヤスはそう言うのです。
では、不自然ではない状況をどう作っていくのか。例えば、「贈答用を選択した場合は最高の包みでお渡しできるよう、ヒアリングのお電話をします」と書いておくのです。そうすると、お店から電話がかかってくることが”当たり前”になるため、不自然ではないようにコミュニケーションが取れるのです。
さらに編集長は続けます。
お店を知っている方に、プレゼントに使っていただく。そうすると、お店に来れない人にまで味が伝わります。そのプレゼントをもらった方に、さらに他の人にプレゼントをしていただけると、誰かに喜んでもらいたいという暖かい気持ちの輪が、”最高のうなぎ”を媒体にして広がっていきます。(ご近所のAさん→プレゼント受け取ったBさん→さらにプレゼントを受け取ったCさん・・・という具合)
こういった輪を作るために、商品の宣伝をするのではなく、プレゼントとして購入いただく方々の想いを代弁する手紙を商品に入れてみてはどうか、とヤスはいいます。
こうすることで、プレゼントを受け取り、開封した方の体験はすごく良くなります。
手紙がなければ、荷物を受け取って開封したらそのまま冷凍庫に入れて終わりです。
一方で、何か入っていれば大半の人はチラッと読みます。
そこで、どういった気持ちで送られることが多いのか、そういった”気持ちを送ること”に鰻が役立てることへの喜び、贈った方との思い出を大切に召し上がっていただきたいという風に書かれていたら。
「へーっ」と思わず声が出て、じゃぁこれいつ食べようかな?とウキウキした気持ちが始まります。
そして、いざ夕飯に食べようと温めているとき。
食べ終わって「ふぅ」と一息ついたとき。
そんな時に、「あいつ、良いものくれたな」そう思っていただける可能性が高まるためにできることを、徹底的に行うのです。
さらに、もらって嬉しかった、という気持ちを広げてもらうための仕掛けも打ちます。
「もし召し上がっていただき、幸せな気持ちになっていただけましたら最上の喜びです。その幸せな気持ちを誰かにプレゼントいただきたい時は、ぜひ御用命ください。ご注文いただく際に、この番号を入力いただけた方には、我々からも特別なプレゼントをいたします」
美味しかった。そう思った方は、こう書かれた紙を、絶対に手元に残してくれます。
そうして、何かプレゼントしようと思ったときに、「あ〜あれよかったな」と思い出してもらえます。
この思い出してくれるタイミングが、いつくるのかはわかりません。召し上がった次の日、翌週、翌月、もしかしたら1年後かもしれません。
なので、月日が経っても「あ〜あれよかったなぁ」と思い出してもらえるように、プレゼントだからこそ最高の体験を届けることが大切だと言うのです。
デザイン思考は、ヒトの体験を良くすることに徹底的にこだわる問題解決の手法です。プレゼントという文脈であってもやれることは沢山あるはずです。
物理的な店舗があり、ファンとして支持してくれるお客様がいるからこそ、SEOよりも、幸せのリピーターとして育てていくのが大事だというのです。
うなぎ職人スクールの可能性
「うなぎって、かなりの専門技術が必要だという思い込みがあって、みんなどうやってさばけばいいか、そもそも知識すらない状態だと思うんです。でも、店でアルバイトに教えてみたところ、1日1時間を8回くりかえせば、少しできるようになるので、サッカー選手のセカンドキャリアなどにもおすすめだと思うんです」
と吉田さん。たしかに、プロ中のプロがさばいているイメージでした。
「サッカー選手のセカンドキャリアもいいですし、自衛隊のセカンドキャリアもいいですね。あとは、海外に持って行けないかなと思います。海外で日本食レストランをしたい人って沢山いると思うんです。」
と河上。
うなぎ職人ビジネスを海外展開?!
「欧州はESG投資やSDGsが重んじられていて、環境に負荷をかけない形での展開なら、好まれます。まず、外国人の方限定で、スクールを開く。」
- 外国の方限定でスクールを開く
- 国内の外国人専門誌に掲載をお願いする
- 日本の文化・食文化の守り手としての、うなぎ職人をアピール
- 外務省と大使館に、日本が誇るウナギを、パリならこの店、ニューヨークならこの店で楽しめます!と発信してもらう
こんなアイデアがデザイン思考で飛び出しました。何より、外務省というワードに目玉も飛び出す、吉田さん。「海外展開なんて、考えたことなかったです。でも、ロードマップが思いつきません」と吉田さん。同感です。河上の答えをまとめると、
ヒトの採用
- インスタグラムやLinkedIn(欧米ではビジネス用SNSとして定着)といったSNSには、海外の方がすごく多い
- LinkedInで、JLPT(日本語能力検定試験)というワードで検索。すると、日本人がTOEIC780点ですと書くように、JLPT2級ですという様に書いている外国の方がたくさん見つかる
- そうやって見つけた方に、うなぎのスクールを、あなたの母国でやってみませんか?もしくは、興味のありそうな方を紹介してもらえないか?と聞く。相手が日本語ができるという能力試験の結果を表示しているので、日本語でメッセージ送っていい
- 相手が暇なら答えてくれる ← ここまで0円でできる
外務省攻略
- 海外の日本レストランで、外務省/大使館公認のお店をググる
- 外務省の代表番号に電話して、「民間外交として日本文化のうなぎのお店の出店支援をしている。皆さんからの、日本文化を外国に伝えることを支援していただきたいのだけれど、XXレストランと同じように、公認してもらいたい。公認をもらうためには、何をしたらいいかを教えて欲しい。」と質問して、やるべきことを全部聞き、何がどの段階までできたらまた連絡したら良いか、外務省との接点の持ち方さえも、外務省に考えて教えてもらう。
- 実働はこちらで担いながら、外務省には、彼らの職域の範囲でできることを手伝ってもらう。例えば、大使館のwebサイトにリンクを貼ってもらう、発行するフリーペーパーの1記事にしてもらう、など。
- 実際に外国の方にうなぎのさばき方や店舗のオペレーションについて教えながら、外務省から教えてもらったポイントも教えていき、適宜、外務省に報告しながら、着実に進める
「物流的に考えると、一番やりやすいのはイギリスですかね。ウナギゼリーとかありますし。」と河上。
うなぎとワシントン条約をどうクリアする?
ただ、うなぎは絶滅危惧種であり、ワシントン条約にひっかかりますので、輸出入には制限がかかります。
「それなら、農林水産省に電話をかけて、『保護がかかっているか、教えて欲しい』と聞いてみればいいのですよ」とヤスは続けます。
「うなぎ屋として、区役所や県庁ぐらいなら付き合いの可能性はなくもないですが、農水省や外務省というのは頭にありませんでした。大丈夫だろうか」と吉田さん。ウニ屋の藤田もその不安は理解できます。官僚、こわそう。
「そこは、区役所や県からのぼっていけば、農水省も県からの紹介なら“むげ”にできないですよ。海外の人にうなぎをたべてもらって、そのうち0.01%でも、職人になりたいと思ってもらえれば、ウナギ職人養成スクールは成り立つわけです。」
「さらに、『頭と骨が廃棄で出るが、SDGsに配慮してタレにしました。」なら、行政もアプローチしやすいですよね。外務省も日本食を海外に売りたがっているが、日本食は廃棄が多いので、不向きだったりします。でも、うなぎなら・・・廃棄はないので、環境保護しながら広げていくなら、うなぎという食がぴったり。」
あまりに鮮やかな展開に、ぽかーんとする吉田さんと編集部。河上は続けます。
「外務省が動かないなら、吉田さんが旅に出たい順に、外国の在日大使館に電話をかけてみてください。例えば日本にあるフランス大使館に、とか。大使館経由で、日本の食文化を自国に展開したい現地の人を紹介してもらうためです。そして、職人になりたい人にたどり着けば、あとはその国での新しいレシピを開発していきます。」
キャッシュポイントは?
そこまでやってみて、うなぎ屋である吉田さん側はどうやって利益を立てるのでしょうか? それは、
- 教える部分
- 秘伝のタレだけは秘密にし、日本から直送する
- 最初はお店にウナギパックを送り、テスト販売してからお店を出す
- うなぎや、お米、醤油といった材料をまとめて送る
といいます。
キッコーマンやヤマサに電話!?
そして、うなぎと一緒に売れるのが、タレです。
ここは醤油メーカーのキッコーマンやヤマサに電話してもいいとヤスはいうのです。
またまた飛び出すビッグネーム。
先方も醤油を広めたいと思っているから、「うなぎと一緒に売りませんか?」と代表電話にかけて、新規事業開発の部署につないでもらいます。
うなぎを海外に売りたい
職人を育てて、フランチャイズを作り
外務省に認定されようと思っている
文化を外に育てていきたい
ご協力いただけませんか?
と聞けば、1時間ぐらいは取ってくれると。そのうち30分夢を語り、30分で夢の感想を聞かせてくださいと頼む。キッコーマンがダメならヤマサに聞いて、醤油メーカーがダメなら、次は砂糖メーカー、ダメならお米メーカーか農協に頼んでいきます。
「醤油を物流として、流れるように、商社経由で物流を組んで、小さくはじめて、大きく夢を育てていく。」
そんなヤスの鮮やかな新規事業(ビジネスをポコッと)に、吉田さんは思わず
「スーツケースを買わなきゃだわ!」
と。歓喜です。
うなぎ屋さんとの夢は広がります。さらに、さっそく動き出した編集長は、驚きの実行を見せたのでした・・・河上の編集後記に続きます。
編集後記
実はいま、編集長河上は、三井物産食料本部の田中さんと新世代の商社像を議論しています。ときに20時半から24時過ぎまで。
今ちょうど、三井物産ではデジタルトランスフォーメーション(DX)実現に向けて、世界中の誰もが見たことのない新しい価値を生み出そうと、必死にもがいています。
その議論の中で、吉田さんの夢を取り込めないか、という話をしています。
日本は、東京都や大阪といった都心に限らず、日本中に、そしてあらゆる分野に素晴らしい職人がいます。自らの仕事に誇りを持ち、最高の品質で、最高の価値を届けることを目標に日々研鑽し、”芸”にまで高めていく。日本はそういった人々が住む、職人大国です。
コロナ以前は、観光客に日本に来てもらうことで、職人芸を楽しんでもらっていました。旅行ができなくなったいま、文化にまで至っている職人芸を売ることはできません。
でも少し視点を変えて考えれば、本来、日本に旅行に来られる人よりも、来られない人の方が多いのです。それであれば、職人の”芸”を輸出し、現地で楽しんでもらうことはできないだろうか。現地の人は、好きな日本文化で自分の店を持てる。その裏側では、日本の職人にきちんとお金が還流される仕組みを作り回していく。
商社は、例えば食品の場合は、醤油の原料である大豆までの上流を抑えています。あとは、下流を一人一人の体験にまで落とし込み抑え、きちんと体験としての価値を提供していけないか、そういった議論をしています。
オー・シャンゼリゼ。
フランス人女性歌手、ダニエル・ビダルさんが歌うものが日本では有名となり、多くの日本人歌手にもカバーされた名曲があります。
あなたは約束があるという
ギター片手に 日がな一日
地下鉄にたむろしている 変わり者たち
わたしもついて行って みんなで歌ったり 踊ったり
キスをするのも忘れてた
オー・シャンゼリゼ
オー・シャンゼリゼ
晴れても 雨でも 昼でも 夜でも
欲しいものは何でもある それがシャンゼリゼ
オー・シャンゼリゼ/ダニエル・ビダル 1971年
対訳:佐々木南実
プレゼントとして気持ちを贈る体験を極限まで追求していくことと同じように、フランスの街角を歩き 恋をする人々の日常と日本の職人がこだわり磨き抜いた技術を結びつけ、新しい体験を紡いでいく。
それを、文化交流という名前で無償で提供するのではなく、ビジネスとして回る仕組みを構築する。
これが令和時代の商社マン、「シン・アキンド」ではないだろうか。
そんな夢を、物語として語り現実のものにするために、日夜奮闘しています。
どこで誰の夢が叶おうと、編集長ヤスが目指すコーヒーに着実に近づいていきます。
これからも、bizpokoを応援してください。皆さんの応援が力になります。
私たちも、皆さんの大成功への挑戦を応援しています。