
ビジポコ編集長に事業の相談をしてみよう!のコーナーです。
ご相談をいただきました。
東北地方に移住され、岩手県普代村(ふだいむら)で、廃業寸前のお豆腐屋さんを引き継ぎ、豆腐作りをゼロから学んで、現在では売り歩いておられる鬼束さんです。
「現在、売上は月30万円ほど。インターネットを通じて、全国の人に豆腐を届けたいが、豆腐は水を使うので足が速い(傷みやすい)ところがある。どうしたら全国の人に豆腐を届けられるか」
というご相談でした。
ここに、デザイン思考でどう答えていくか。
編集長河上は、どのような質問し、何を導き出すのか。
今回のビジポコ相談室は、『インターネットで豆腐を売るには?』です!
先にまとめると、下記のような学びが登場します。
- 認知度が低い商品の場合は、有名なプロダクトと組み合わせる
- 日常で思い出してもらうポイントを設計する
- 役立つを中心として考える
- 最後にどんな景色が見たいかが大事になる
- 代表電話にかけて30分取ってもらう
- ストーリーを設計する
さあ、どうなるでしょうか!
もくじ
周囲に愛されて月30-80万の売上
鬼束さんは、人口2500人の岩手県普代村にお住まいです。
もともと、九州地方から地域おこし協力隊で東北地方にやってきて、そこで廃業寸前の豆腐屋さんと出会いました。最初は豆腐もうまくできなかったそうです。でも、他の店で修行して、何年か経ってちゃんとした豆腐ができるようになり、お客さんがゼロの状態でスタート。
普代村の中を売り歩き、今ではリピーターがほとんどで月に30-80万円ほどの売上があります。特に冬場の方が豆腐の需要は伸びるそうです。
東北文化としての焼き豆腐
「冬場が伸びるのは、湯豆腐としての需要ですか?」と、編集長河上の最初の質問。
鬼束さんによると、豆腐田楽という、焼き豆腐にニンニク味噌を塗って焼くという郷土料理があるそうです。メインが焼き豆腐。煮染めなども使った郷土料理です。
普代村、というより岩手県は、豆腐の消費量が非常に多いところでもあるようです。鬼束さん自身が驚かれたところによると、「毎週10枚、1000円分だったり、かならず週5枚だったり買ってくれる方が結構いらっしゃる」とのこと。
つまり、かなりの豆腐消費量なのです。週に5枚、500円であっても、月2000円ですから、お豆腐に月2000円かけるというのはかなりのものです。
仕事で楽しい瞬間
ここで、河上から新たな質問が。
「とても大変だと思いますが、仕事している中で一番嬉しい瞬間ってどんなときですか?」
鬼束さんは、「固定のお客さんばっかりなので、『毎週楽しみにしている』といってくれて購入してくれるときです。」
とのこと。この質問が、あとあと大きなヒントとなります。
豆腐田楽の生産工程
お豆腐は、地元で売り歩くのは成功していても、「ネット通販は難しい」と鬼束さん。なぜなら、水分があるからです。同様に、豆腐田楽そのものも、味噌の水分があって、真空パックに向かないという弱点を持ちます。
生の豆腐を作る → 焼き豆腐用に切る → バーナーで焼く → ニンニク味噌をぬる → 炭火で焼く
という工程をたどります。
そして、食べる側。食べる側は、おやつ代わりや夕飯のおかずにする人が大多数です。おやつというのは、お祭りで出店し、食べ歩きでは豆腐田楽は人気だからです。
炭火であぶる豆腐をバーベキューの一品にしてはどうか?
とても美味しい豆腐であり、東北の食文化でもある豆腐田楽。ただ、認知度が低いという問題があります。編集長河上も「知らなかった」とのこと。そして、「炭火であぶって食べるというのは独特。炭火で焼くというのは、バーベキューに近い感じがするので、たぶんバーベキューの一品として新しく提案していけるのでは? 」といいます。
つまり、認知を広げるためにも、BBQ関連の商売をしている人達、例えばBBQ場やキャンプ場、キャンプ用品店、キャンプやBBQで有名なYouTuberと連携し、「新しい楽しみ方として、顧客に提案してみませんか?」と持ちかけるのはどうでしょうか。
これは、非常に重要なポイントだと考えられます。
なぜなら、認知度が低い商品の場合は、認知を広げるために、他の有名なプロダクトと組み合わせる、という提案だからです。藤田はのけぞりそうになり、「なるほど!」と膝を打ちました。「バーベキュー+豆腐」で調べる人、プル型での検索は期待できないけれど、すでに売っている人たちがプッシュしてくれれば、多くの人に認知してもらえるようになります。認知されていないものは、Google検索はしてもらえません。でも、一度でもInstagramで「BBQで、オシャレヘルシーに豆腐を食べている写真」を見れば、その後は検索してもらえるようになります。このプッシュでまずは見せる、認知させる、ということが非常に重要です。
ではなぜ、バーベキューやキャンプ関連の何かしらのお仕事をしている人たちはプッシュしてくれるのでしょうか。
それは「炭火であぶる豆腐田楽」が、マンネリ解消策の1つになる可能性があるからです。バーベキューやキャンプを何度もやる人は段々と、肉と野菜を焼き、マシュマロで締めるのに飽きます。
そこに、新しい味、それも肉や野菜を邪魔しない豆腐が飛び込むわけです。”タレの味”に新しいものが出てても、そこまでのインパクトはありません。でもそこに新しい食材が入ると、露骨に項目が増えるので人の耳目を引きます。例えば、どんなに好きな映画でも、10回も20回も観れば必ず飽きます。そこに少し目新しいものが来ると、「目新しい」というだけで価値があるのです。
このようにパートナー候補である方達が、彼らのお客様に対して新しい価値を提供できるような提案をすることが重要だと河上は言います。豆腐を売りたいという自分の都合だけを押し付けていては、提案には乗ってもらえない可能性が高いのです。
とにかく『相手の役立つ』ことにこだわり続けることが、デザイン思考を使って問題を解く時に最も大切な姿勢です。
岩手県の特産品を東京で売る
河上は続けます。
「焼き豆腐は食文化なので、地域のことを知ってもらったり、文化を楽しんでもらったりする人を増やしていきたいのでご協力をお願いしたい、となったとき、最後に『売る』という話がやってきます。文化を残したいという気持ちを大切にしながら、ご協力を取り付けていきます。」
ネットショップを作ってただ売るより、コミュニケーションの部分が大切な気がしており、LINEグループみたいな密な接点を作るのはどうでしょうか。また、豆腐が串にささっていると、バーベキューで焼きやすいし、フォトジェニックになります。つまり写真映えするのです。変わった具材なので勝手に写真を撮って勝手にアップロードしてくれるはずなので、そこまでセットになっていると、バーベキュー業者さん側も扱いやすいのではないか、と河上はいうのです。
ここでもなるほど!ポイントです。相手の役立つために、どうしたら相手が扱いやすいかを重点的に考えていく。
「豆腐バーベキューを広げるのに、キャンプ芸人やバーベキュー芸人に『面白いもの見つけたから』とアプローチしてもいいかなと。」
豆腐の楽しさの1つは、”味”を楽しむこと
鬼束さんのお豆腐は、こだわりの豆腐でもあります。
しかし、世の中にはイオンで売っている38円の激安豆腐もあります。こういった豆腐は大豆の味がしない・・・いや、極めて薄いですが、だからと言って楽しみ方がないわけではありません。大豆の味がしないからこそ、薬味の味が如実にわかるのです。
実際に激安豆腐と、2~3種類の醤油や、同じく2~3種類の塩を買って試してもらいたいのですが、大豆の味のしない豆腐に、違うメーカーの醤油を垂らして食べてみてください。濃口醤油の味、薄口醤油の味、同じ薄口でもメーカーが違うとこんなに味が違うのかと驚きます。
ただただ、醤油を舐めても何も楽しくないのですが、冷奴の楽しみ方として醤油の風味を味わう。そのために、あえて激安の豆腐を買ってくるのです。
重要なことは、豆腐と調味料や薬味をうまく組み合わせると遊べる、ということなのです。
激安豆腐でさえ、醤油や塩を楽しむために使えるのです。
では、大豆の香りを楽しめる素晴らしい豆腐ではどんなことができるのでしょうか。
例えば、「大豆の香りを最も”際立たせる醤油”」や「豆腐と醤油の異なる大豆の味で深みを増す醤油」「余韻を楽しめる塩」そういった”組み合わせを探す遊び”ができるようになります。
世の中には、360種類の塩が手に入るショップが存在しますし、醤油メーカーに至っては1600社あると言われています。これらと、豆腐の組み合わせだけでも膨大なパターンになりますが、さらに薬味まで組み合わせたら、さながら小宇宙です。
この小宇宙を、醤油のセレクトショップや、塩のセレクトショップに足繁くかよう、醬油マニアや塩マニアの人々と探検して歩く。具体的には、今年最高の組み合わせを提案する「冷奴コスモ大会2021」を開催して遊んでも良いわけです。
さらには、分葱や、薬味も、こだわりたい。そうした日常の中のこだわりを探す楽しみを、豆腐を通じて提供するということもできます。
そういった遊びを行うことで、醤油を買い替えるタイミングで、この豆腐を思い出してもらえるようになります。いろいろな食品とコラボしながら、豆腐を思い出していただくタイミングをどう作っていくか…。それによってリピーターが生まれ、強固な顧客層として育っていく。
ここでもなるほど!ポイントです。「日常で思い出してもらうポイントを設計する。」
ダイエット中の人たちにうまく代替品として渡す
「ところで、世の中にはダイエットをしたい人も存在します。ダイエットをしているということは、そもそも食べることが好きで、食べすぎちゃう人なわけです。そういう人はちゃんと食べたいという欲求が強いので、そこに応えられるといいかなと思います。」
「そこで面白いのが、中華圏の『豆腐かんす』という、麺みたいになっている細切り豆腐です。家で焼肉をした後の、焼きそばの麺を小麦の普通の麺から豆腐かんすに置き変えれば、糖質を一気に減らせます。普通の麺なら80gは糖質を摂取してしまうところが、これを0gにできる。そうればビールもたらふく飲んで、お肉を甘いたれでたっぷり食べても、罪悪感を減らせます。」
食べる人を想定して、その人の役に立つことにこだわる。デザイン思考の強みです。
最後に何の景色が見たいか
バーベキュー豆腐や、塩醤油との相性抜群豆腐、芸人さんとのコラボや、豆腐かんすを小麦麺の代わりにするなど、さまざまなアイデアが飛び出しました。これらを全部実現していくと、「面白いお豆腐屋さん!」という評判が立ちます。
そのあと、「最後にどんな景色が見たいかが大事になります」と河上はいいます。
岩手県普代村に移住し、美味しい豆腐が作れるようになり、待っている人たちがいて、その人たちの笑顔が心に響く。そこから軸足をずらしていったときに、例えば醤油屋さんとコラボしてみたけれどあんまり楽しくなかったら、続けても意味がありません。例え大量に売れて儲かったとしても、楽しくなければ仕事をする意味がありません。大量に売れたらラッキーぐらいの感じで、次の挑戦への軍資金にする。そうやって、仕事を通じてしか見ることができない自分だけの特別な光景を少しずつ探していくのがいいと、河上は言います。
新規事業開発部へのアプローチ
夢を実現するためには、具体的な最初の一歩目が大事です。
まずバーベキュー場を運営している会社さんへのアプローチ。
「メールやお問い合わせだと無視されるので、代表電話にかけて、商品開発部につないでもらいます。会社は、代表電話を絶対に無視しません。そこで、相手の役に立つかたちで顧客の笑顔を増やしたいから30分だけ時間をください、といって話をさせてもらう」
「芸人さんはSNSからからみにいくと話を聞いてくれるかなと。」と河上。
あとは、ストーリー性。普代村で豆腐を作っていて、その村では豆腐を焼いて食べる文化がある。そういった文化を残し、広げたいと思ったとき、バーベキューに新しい食材として提案できないかと考えたので、少し話を聞いてもらえないでしょうか、と伝えます。
豆腐を売ることを考えるのではなく、役に立ち、その先の笑顔をみていく。周りの人とその先に笑顔を届けたいといえば、怪しさも消えます。
こちらもバーベキューのシーズンに向けて、準備をしていく。
今の豆腐をそのままバーベキュー場に送り、何が足りないか聞く。
また、企業がどう広報やプレスを打てるか考えていくのも必要です。地域おこしやSDGsに関連した新しい食材はじめました、とかだと宣伝しやすく、先方も乗ってくれるのではないでしょうか。
ビジポコの学び
お豆腐屋さんのご相談。バーベキュー場に提案していくという話を中心にお届けしましたが、ビジポコ読者にとっても学びがあったのではないでしょうか。
- 認知度が低い商品の場合は、有名なプロダクトと組み合わせる
- 日常で思い出してもらうポイントを設計する
- 役立つを中心として考える
- 最後にどんな景色が見たいかが大事になる
- 代表電話にかけて30分もらう
- ストーリーを設計する
このように、デザイン思考では毎回同じ学びでありながら、これだけのアイデアが飛び出すのです!とにかく、役立っていくこと。自分自身が見たい景色も大切にしながら、ストーリーとともに、夢をみていく。
そんな話になった今回のビジポコ相談室でした。鬼束さん、応援しています!