自治体DXの進め方

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自治体でのDXの進め方についてご質問をいただきました。

 

質問

・自治体のDX戦略やDXビジョンは、どういった進め方で作ればよいのでしょうか?

 

▼ご質問の背景

・現状、多くの自治体様が、“何から始めたら良いか分からない”という状況で、これから本格的にICT計画→DX戦略へ転換していく段階です。

・民間企業であれば、経営理念と照らし合わせて、「何のためのDXか」という目的を明確にしていく作業を、経営者、またはDX担当者と議論していくと思いますが、自治体の場合はどの様に進めるのが良いのかわかりません。

・民間企業での社是や、中期経営計画に近いものは、自治体には、総合計画総合戦略人口ビジョン情報化推進計画、その他推進計画が各種あります。しかし、どれも抽象的、または領域が絞られすぎて、経営理念の様な軸となるものが探せない状況です。

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こんにちは。

Bizpoko編集長の河上泰之です。

皆さんのお住まいの地域では、コロナワクチンの摂取は順調に進んでいますか。

例えば東京23区でも、摂取率には大きな開きが出ています。

高齢者の2回目の摂取率は、千代田区は81.3%%、大田区は67.4%です。

https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20210805b.html

今後の自治体のデジタル化の進展によっては、こういった自治体運営にも差が出てきます。

ところで皆さんは住民税として、年収の10%が巻き上げられています。月収30万円なら、年間36万円が取られています。そんな自治体の運営ですが、皆さんのお住まいの地域は隣の市区町村と比べて進んでいるのでしょうか?それとも怠けて遅れているのでしょうか。

放置しておくと、税金が無駄に使われて終わりです。

 

さて、視点を変えて実現可能性を見てみましょう。

民間企業でさえデジタルトランスフォーメーションが全く進まない中で、自治体にそんなことができるのか。

答えはイエス。行うべきを明確にさえすれば、あとは、やるか、やらないかだけの問題になります。

 

なぜそんなことを、編集長河上は答えられるのか。僕の学術機関での研究テーマはズバリ「地方議会議員選挙の選挙公報のリデザイン」です。

選挙公報とは、選挙のたびに配られる、顔写真と名前と好き勝手なことを書いた新聞紙のようなものです。

アレを読んで投票先を決められる有権者は何人いるのでしょう?役に立たないので、直してしまおう。そんなことをテーマに掲げて研究し、神奈川県で候補者の鞄持ちをしながら事務所で政治の裏側を見たり、市長経験者と数日にわたり議論をしたり、地方議会議員にインタビューを敢行したりと勉強させてもらいました。

 

というわけで僕は、地方政治 × IBM (ITの知見)× 戦略コンサル × デザイン思考 という謎のレアキャラなのです。

 

自治体は、どのようにDXに挑めば、簡単にできるのか。

普段はあまり気にかけない自治体について、みていきましょう。

 

それでは、スタートです。

以下に、いくつかの自治体がサンプルとして出てきますが、説明用のサンプルです。政治的な意図があり選んだわけではありません。いちおう。

大前提

自治体運営の大前提

行政の場合、方向性は本来的には政治家が指し示すべき事柄です。

過去の例

  • 尊皇攘夷
  • 富国強兵
  • 列島改造論
  • 所得倍増計画
  • 最低限、こういう↑方向性が必要です。

そして、こういった方向性に地域や国を導くための実行手段として、行政の各施策があります。

 

ところで、地方自治体の運営は、地方分権の意図が戦後から進められています。そのため、国から各自治体に権限が下される傾向にあるという文脈があります。

ふるさと納税もこの流れの一端です。「地方交付税に頼らずに、稼げ」というのが当初のメッセージでした。(大阪の泉佐野や、高知県奈半利が暴れ回って有名でした。奈半利町は最後は犯罪に至った*0のでアウトでしたが泉佐野は裁判に勝ったので堂々と攻めています)(*は最下段にリンクをまとめています)

 

地方政治は、地方自治 vs 中央集権と、大きな政府(北欧のような高税高福祉) vs 小さな政府(米国のように自分のことは自分でやれ)が大きな議論の軸です。

 

そんな地方自治で現在一番面白いのは、明石市のいずみ市長です。

繰り返しますが、政治的な意図で推すわけでは決してないです。笑

また、政治パフォーマンスが面白いからではありません。問題解決のための構造化、ビジョン提示、行政施策の合致、そして結果がすごいのです。

 

いずみ市長は、2011年の市長選挙で「地域のことを地域で決められるようにするために、中核都市に成長する。中核市になるためには、既存の規定である人口30万人以上になるか、もしくは規定の緩和を働きかける」*1として当選し、人口を増やすための市民サービス(行政官の給料を削り、その分を子育て世代に突っ込み、人口と地価をあげて税収を増やすという循環を始めた*2)を展開し、住民を爆増させています。

抽象的ですね。数字でみましょう。

  • 人口は8年連続増加。
  • 出生率は脅威の1.7。(全国平均1.36)
  • 地価は7年連続上昇。
  • その結果として、税収は7年で30億円増収。

 

いずみ明石市長は明言しませんが、この動きは明確に明石市の存続可能性を高めています。

総務省のwebに野総の書いたレポートがあります*3が、そこにでは既存の行政単位のうち523は消滅すると予測されています。

推計によると、2040年には全国896の市区町村が 「消滅可能性都市」に該当。うち、523市区町村は人口が1万人未満となり、消滅の可能性がさらに高い。

これは、未来予測で唯一当たるとされる人口動態を前提に推測しています。

人口動態での未来予測とは、2021年に70万人生まれたら、2041年には70万人未満が成人になる(一定数は病気や事故で死亡するため)という予測です。

今年、子供を産んでもらい引っ越さずに20年生活してもらうか、もしくは他の市町村(海外含む)から住民を奪い取らねば、まもなく各市町村は消えてなくなります。これが、自治体の置かれた大前提です。

 

社会問題を解決するための考え方

いずみ明石市長が興味深いのは、このように構造化してどこに行政として介入できるのかをきちんと理解し、それを全体に共有していることです。

このように構造化する思考方法は「システム思考」といい、大規模かつ複雑な社会問題へ対応するための物事の考え方です。(いずみ市長のはポンチ絵的に書いていますが、中身は的確です)

システム思考は日本では全然流行っていないのですが、他国を占領統治するような米国では当たり前のように使われます。

目的を定め、現在の社会構造を把握したうえで目的を達成するためにはどこに介入できるのか、入り込めるポイントを抑える。

これが、人間が社会問題に対する適切なアプローチです。

 

構造を特定しない、部分に対するロジカルシンキングでの問題解決は、直近日本国政府が大失敗しました。

部分への論理的思考では「東京五輪を開催してもバブル方式にして海外から持ちこませなければ、国内のコロナ患者数は増えない」という結論を正しいものとして導きます。

これは、論理的には確かに正しいのです。持ち込まなければ、流入という意味では増えません。

しかし、結果はご存知の通り。五輪を言い訳にして飲み歩く人や、テレワークを止める企業が増加しました。これらは違法行為ではないため、個人や企業の自由の範囲内です。(憲法13条では、公共の福祉に反しない限りは、生命、自由及び幸福追求は最大限の尊重されるので、どうしようもない。)

 

オリンピック前から尾身さんは警告をしていましたが、構造化すれば明らかなことも、部分に特化した論理的思考では解けない典型例です。ここが論理的な問題解決の限界であり、限界があるからこそ社会問題は別のアプローチをせざるを得ないのです。

 

もう少し違う例でいきましょう。例えばシャッター商店街を活性化させたい、という話があります。

あの構造は考えてみれば簡単なのですが、復活させるのは大変です。

1.商店街にくる人が何かの原因で減る→2.店が減る→3.商店街に行く理由が減る→(1に戻る)商店街にくる人が減る・・・

という構造です。

 

この流れを加速させるのは、店が減った結果として用事が済まなくなったタイミングです。

例えば八百屋、肉屋、魚屋、酒屋があれば夕飯の買い出しに事欠きません。

でも、肉屋がなくなれば、スーパーに買い出しに行かねばなりません。(顧客目線では、その商店街は役に立たなくなってしまったので、役に立つスーパーに切り替えられた)

問題解決の観点では、上記構造のどこに介入すれば商店街を復活させられるのか、みたいなことを考えていきます。

こういう構造を考えずに、お祭りをしたら、交流会をしたら、安売りをしたら、と具体策を考えても根本的な解決にはつながりません。

 

質問への回答

自治体のDX戦略やDXビジョンは、どういった進め方で作ればよいのでしょうか?

編集長河上からは、自治体のDXは3種類走っているように見えています。

 

a. 総務省が強制するデジタル化(地方公共団体情報システムの標準化など)への対応

b. 総務省が強制していないが、自治体が勝手に進めたい、職場内のデジタル化(RPA導入や、手計算のExcel化など)

c. 他の市区町村に勝つための行政施策の検討と、実施段階でのデジタル活用

 

この3つのうち、”戦略”やビジョンが必要になるのはcのみです。(デザイン思考は、a~c全てに必要です)

cとは、兵庫県明石市や大阪府泉佐野市のようなことを意味します。

泉佐野市は、ふるさと納税のプラットフォームを独自開発しています。(さとふるなどを利用すると30%手数料を抜かれるため)

ふるさと納税を、他の市区町村に勝つために注力する戦略として選択し、その実現のためにwebシステムを開発しました。

 

ちなみに「戦略」とは何か。(これが語れる戦略コンサルタントはごく一部なので、今付き合っているコンサルが本物か調べたかったら、戦略とは何ですか?と聞いてみてください)

出自の軍事用語としては、国家が永続的に存続するために、平和な時から他国から戦争をふっかけられないような状況を維持し続けることを意味します。孫子の兵法で有名な戦わずして勝つ、と同義です。

戦争状態で行われることは、戦術でしかありません。(戦略と戦術は、本来は組織によって入れ子構造です。支社にとっての戦略は、本社から見れば戦術のように。なのですが、まぁざっくりいうとこう分けられる)

 

これを企業で考えるとわかりやすいのですが、競合と数字を競っている(戦争状態)中で行うことは、全て戦術です。

そうではなく、例えば、Amazonのクラウドサービス(AWS)は、年々契約金額が下がるというビジネスを行なっています。顧客からすると、ほっといても値段が下がるので、普通に使えているしわざわざ他社を選ぼうとする動機すら持たなくなります。

こうして利用者が増え続けると規模の経済が効く(例えばデータセンターの設備を購入するにしても一括で大量に買うと安くなる)ので、さらに安い値段で提供できるようになり、そうすると顧客が増える、そうするとさらに大量の資資材が必要になりさらに購入コストが下がり安く提供でき・・・という状況になります。

これに対抗できない日本のベンダーは、売るものがなくなったので仕方なくAWSを売るという事態に陥っています。するとますますAWSのユーザーは増えるので、値段が下がるという構造です。

このように、戦うことすらせずに競合を押さえつけるために大上段で行うことが「戦略」です。

 

他の市区町村に勝つことを目指すのであれば、ビジョンが必要になります。

これは差別化して一番を取るために必要です。

例えば、ビールといえば何?と聞かれると、真っ先に答える銘柄があると思います。

そのような状況が、差別化されきった状態です。

ここで上がる銘柄が人によって違う、というのは、差別化とは「対象者にとって意味のある違いがある状態で、なおかつ一番最初に思い出してもらえる状態」というビジネス上の目的があるために、対象者:ヒトが変われば上がる銘柄や企業が変わるからです。

これは、質とイメージが分離していることも付記しておきます。

世界最高の自動運転技術というとテスラのイメージがありますが、質・技術的に優れているのはスバル:アイサイトや、ベンツです。

 

経営理念の様な軸となるものが探せない状況

実は、かなり多くの自治体には、経営理念的なものがあります。例えば、西宮市にもあります。

名前は経営理念ではなく、「市民憲章」です。市民憲章そのものについては、愛知県碧南市が素晴らしいまとめを作っていたので、下記にリンクを貼っておいます。*4

こちらが西宮市の市民憲章*5です。

「西宮市民憲章」は、昭和45年11月3日に定めました。

美しい風光と豊かな伝統のまち、西宮の市民としてこの憲章を定めます。これは未来へはばたくわたくしたちの合い言葉です。

その1 西宮を みどりと青空の明るいまちにしましょう
その2 西宮を 教育と文化のかおり高いまちにしましょう
その3 西宮を 心のかよった福祉のまちにしましょう
その4 西宮を 希望にみちた産業のまちにしましょう
その5 西宮を 心身ともに健やかなしあわせのまちにしましょう

以上が西宮市民憲章です。

これが役に立たないのであれば、本当は見直すべきです。

 

見直し方は、2つです。

1つは字面から全部入れ替える方法。もう1つは、解釈だけしなおす方法です。解釈だけの変更なら、議会での議決は不要かもしれません。(なので、簡単。下手に議会に付議したら、今更なんだー!と無駄な議論に巻き込まれる)

 

企業の場合は、税務上、利益を出す集団と定義されています。そのため明文化されていませんが、利益を出すことが大前提となります。その前提での集団の目的が経営理念や社是、タグライン、企業ビジョンとして語られます。

蛇足ですが、IBMやBCGといった古い企業ほどビジョンはありません。IBMは、社会から必要とされることを目指すのみです。お前らは、水道事業もやるのか!(と、勤めていたときはよく怒っていたのが懐かしい)

ビジョンが流行ってきたのは、米国西海岸シリコンバレーからに見えています。投資家からお金を引き出すために、何をする集団なのかを明確に示したのが始まりに見えます。

 

行政の場合は少し違います。以下は、地方自治法の第一編第一条と、一条の二を参考としています。

国は、国際社会における国家としての存立にかかわる事務を行います。存立とは、滅びずに続くことなので、国民の生命と財産を守る事が大前提となります。

地方行政は「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」と定義されています。

また住民に身近な行政は、国ではなく自治体が行うと定められており、少子高齢化等の対応や、学校教育等はある程度地方自治体に任されているという状況です。

 

なので、定義論的には、自治体の消滅を前提に変革しない街があっても良いのです。

存続させるために無理をして住民の福祉の増進を図れない事態になるのであれば、他の市区町村との合併(直近では平成に大合併大会が行われた)を前提に徐々にシステム統合を進めても良いと考えます。例えば、無駄に借金をしてゴミのようなシステムを発注するぐらいなら、ということです。誰がその借金を返すのでしょう?

ただし、首長、議会の政治家や、行政職員は嫌がるので、「地域の存続可能な日にちを1日でも延ばすこと」が明文化されていない大前提だと仮定できます。

 

そのように地域を生き残らせることを最優先する目的とするのであれば、地域維持のための費用(いわゆるランニングコスト)、税収(市民・法人両面)、地方交付税、稼ぎ(ふるさと納税)をどうコントロールするか、というKPIに落ちてきます。

地方自治だって選ばれなければ、消えて無くなります。

そういう意味では、行政も企業と同じです。

 

民間企業の場合は経営者、またはDX担当者と議論していくと思いますが、自治体の場合はどの様に進めるのが良いのでしょうか。

遠回りをしたのですが、本丸です。

先のa、b、cを再掲します。

a. 総務省が強制するデジタル化(地方公共団体情報システムの標準化など)への対応

b. 総務省が強制していないが、自治体が勝手に進めたい、職場内のデジタル化(RPA導入や、手計算のExcel化など)

c. 他の市区町村に勝つための行政施策の検討と、実施段階でのデジタル活用

 

自治体の場合、まずは、首長と行政職員の間でa~cの3つのうちどれを進めるのか、複数選ぶ場合はどういう割合で、どういう優先順位で行うのかを決めます。

この議論を行う際に、その自治体として何を行うべきなのか、過去からの文脈や背景を踏まえて方針(だらだら衰退して消滅するか、もしくは生き残りをかけて本気で戦うか)を決めます。

だらだら衰退を選ぶのなら、最低限はaです。人の採用が困難なほどであれば省力化せねばならぬのでaとbのコンビです。

生き残る場合は、a~cまでのフルコースです。

 

aは、議論の余地はありません。期限内に一円でも安くできる方法を選択するだけです。自分たちの使い勝手・・・とかいうわがままを聞く必要すらありません。

 

bは、働きやすさや、働くためのモチベーションも関わってくるため、議論の余地があります。

ただし、デジタル化すればそれで良い・・・というわけにも行かないのが難点です。なぜかというと、役所は雇用の受け皿という意味合いもあるからです。

また別の観点からは地方の労働者は、ITリテラシーが高くないという現実と向き合う必要があります。

PDFとは何かすらわからない人が多くいます。ブラインドタッチができる人も限られます。Excelで関数を使うことも困難です。

そういうことを前提とせざるを得ないので、超絶高度にシステム化してしまうか、もしくはアナログの余地を残さざるを得ません。超絶高度に、とは、炊飯器をイメージしてください。炊飯器はボタンを押すだけ。中身はシステムが米を炊いています。(洗濯機でも良いです)

この辺りのバランスを含め、議論していくことが求められます。

 

ただし、1つだけ言えることは、政府から自治体向けに行われているアナウンスにある「半分の人数で今と同じことを実現する」となると、全ての業務をシステムを前提として作り直す必要があります。編集長河上がアクセンチュアに教えた内容と全く同じことが求められます。

そもそもPCの中で行える業務で、マニュアルがあるものは人間が行う必要がありません。0です。

なので、個人的には炊飯器レベルで作り込む方がいいのでは?と考えています。なんなら、それを他の市区町村に売っても良いわけですし。(どうせ横並びなので)

cは、これが一番複雑です。

以下は、生き残ることを決めたあと、という想定で書きます。

c-1:優先順位と業務割合の決定

全業務に対する、DX関連業務の優先度決定し、DX関連を行うために、どこまで普段の業務を止めて良いか資源配分を行います。民間だとわかりやすいのですが、例えばDX推進で全社員の20%の業務を割り当てるのであれば、20%の売上低下は前提条件として織り込むべきです。

凹ませないために、先に業務改革を、という”趣味”の組織もありますが、無意味です。DXでは提供するサービス等を選ばれるものにしなければならないので、大きく業務やサービスが変わります。その変化に耐えられるだけの幅を持たせた改革を、サービスの影も形もない段階から想定して業務を変えるというのは無理なので、業務改革が2度手間、というか物理的に2回行うことになります。あえて言うのなら、業務工数を1/3~1/2まで減らすというような極端なことをするのなら、先行着手でもいい。そこまで圧縮するのなら、あり。

 

普通は、そこまでの改革は目指していないので、20%分として内部向けの業務を止めるのが現実的です。

これを行わないと、現場組織に協力を仰いだ際に、基本的に断られるか必要なだけの協力が得られなくなります。

なので、優先度と割合の決定は、一番重要です。これがないだけで、容易に失敗します。民間企業も同じ部分で失敗します。

 

c-2:定量的な目標の設定

まず税収と、運営コスト算出の前提となる将来人口の変化を推定します。

これは人口動態を前提とすれば、ある程度は出せます。もしくは、総務省等が推定した内容があるのであれば、それを前提としても良いです。

 

その人口変化を前提に、各種税収の変化を推定します。

法人税の変化の推定は多少難しいですが、ここは鉛筆を舐める程度でえいやで出します。

ここまでくると、税収面が見えてきます。(地方交付税やふるさと納税は、一旦無視するか、現状維持と想定する)

 

費用は、行政の年間の運営費や各種施設の更新費用、債券発行があればその利払いや償還が想定されます。これを計算します。

地方自治法上は、常にコストカットし続けろと決まっている*ので、それを守つもりがあるのなら、トヨタのように毎年XX%削減するというようなことを決めて進めても良いと思います。

(地方自治法 第2条14 地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。)

 

いずれにせよ、これで、将来的な収入と支出が見えてくるので、目標の定量的な設定ができるようになります。

これを達成すべき目標とすることで、生き残るための戦略として何をするのか、収入拡大、コストカットといった部分の議論ができるようになります。

この段階では、うっすらと見えていれば良いです。後段の目的設定を踏まえた上で、戦略を決定します。

 

この、何をするのか、という部分を議論するための数字なので、チャラチャラと出してしまえば良いです。この計算に1ヶ月もかけたらかけすぎです。1~2週間でパッと出したいところです。(コンサルなら、内部的には多分2~3日で結論を出します。逆にいうと、それぐらいでできるだけのレベル、80点ぐらいで良いです)

 

c-3:定性的な目的の設定

生き残ることを決断し、次に数字の変化をみると、なぜ取り組まねばならぬのか変化する理由が物語として語れるようになるはずです。

西宮市がわかりやすいので引き続き例に出すのですが、西宮市は過去の背景として、阪神淡路大震災での財政悪化があり、あの震災を起点として変革を進めています。

このような背景があることはそれとして、未来でどうなりそうかという数字を見据えた上で、なぜ変わるのかという理由を、今時点で文章としてつくります。

 

c-4:戦略の決定

c-1〜3までで、業務として検討に使える時間、数値目標、変化の背景と目的が明らかになっています。

ここは改めて、背景、目的(定性)、目標(定量)、アプローチ(目標達成のためにやるべきこと)、期間・実施計画(アプローチを期間中にどう進めるのか計画)、体制を決めていきます。

 

背景、目的はある程度硬く決まったものが作られているはずです。

それらを踏まえて、もう一度c-2で議論した目標を見直します。

税収増収と、コスト削減は前提とします。

そのうえで、どの領域や分野をターゲットに据えるのかを決めます。

 

ここで、「1-2.社会問題を解決するための考え方」で説明したシステム思考が出番となります。

コストを決める構造はどうなっているのか、それを法律や制度視点からの構造で捉えたり、どのような仕組みになっているのか(商店街の例などのようなざっくりで構わない)を図で作ってみます。構造なので、図で作ることが重要です。

 

また税収を上げるための方法も、さまざまな粒度で議論し、構造化して見ると良いです。

市民税だけの構造を作るもよし、法人税だけでもよし、それらを統合するもよし。

 

この目的は何かというと、人それぞれで見えている構造が違うので、その構造理解を揃えることに意味があります。

また自分たちが今後検討する内容は、その構造上のどこに影響を及ぼすアイディアなのかを、共通の認識を持って議論することが重要です。

 

例えば、住民税を増やそうとして人を集めても、起業家ばかり集めてしまって良いのでしょうか。

一般的には、企業経営者は節税できてしまうので、単純に会社員から徴税するのとは訳が違うから住民税の増加には直結しないのでは?という議論ができると良いです。

この辺りをきちんと分けて議論しながら、どんな人に来てもらうのかを議論することが大切です。(一方で、企業家が増えれば法人税収が上がるので、それでもいいはず。でもこれは住民税とは違う色の税収なので、違う、ということを明確に認識することが大切)

 

こうして、税収増加や、コストカットの対象領域を決めます。

次に、これらをいつまでに行うのか、ざっくりした期間を決めます。

ここは、人口動態から時間切れはいつなのかを想定し、その上で計画修正等のバッファーを設けて短めの期間を設定します。

1つの施策が結果に結びつくのには検討半年、予算措置で年度をはさむので出るまでは1年。そこから浸透して効果が出るまでは3~6年はかかると想定します。(1年目はパッと上がり、2年目は微妙に落ち込み、3年目から安定した成長曲線に乗るイメージ)

初期の検討と合わせると、4~7年かかります。

先に書きましたが総務省・野総によるよ2040年には半分のまちが日本から消える寸前まで追いやられている想定です。

おそらく負け組が明確になるのは2030年ごろです。(そこで潮目が明確になり、33年ごろからは衰退地域の衰退速度が上がる)

負け組と認知されると、夕張市を見ればわかりますが一気に住民が逃げます。そうなると足掻くにあがけなくなります。

というわけで、実は直近1~2年が勝負なんですよね。

 

そんな感じでざっくりの時期感を決めて、その中でタスクの順序を定め、担当部局と担当者を決めます。

変革を引き継ぐのは事実上不可能なので、人事異動も凍結した方が本当は良いです。

 

さてこれで、

背景、目的、目標、アプローチ、体制が決まったので、実施計画書が完成します。

 

c-5:戦術の決定

実施計画書の検討において、税収増加 or コストカットするための大まかな分野は決まっているはずです。

その分野において、コストカットであればそのための構造を、また税収増加をするのならそのための構造を作り、動かすために行うべきことが戦術です。

戦術検討で必要なことは、ヒトと、提供する居住体験です。不動産屋の新規事業みたいですが、行政なので居住と書いてみています。一般市民なら文字通りの居住、企業でもその街に留まりビジネスを行う体験が良いこと重要です。

 

まず議論すべきは、ヒト、誰を対象とするかです。

分野が決まっていれば、そこに関連する人が登場します。

 

例えば、住民税を支払ってくれる住民を増やすとなると、金融資産1億円以上の金持ちを集めたり、共働きの夫婦などが狙い目です。

闇雲にざっくりと住民と設定するのではなく、ある程度論理的に分解し、狙うべきターゲットを決めます。

このターゲット選定は、競合(例えば住民獲得を競う近隣の市区町村)の動きを見ながら進めます。

生き残ることを考えると、直接接する他の自治体は、吸収合併する相手になる可能性があります。つまり、それらに勝つことは前提です。なので、まず圧勝する必要があります。その上で、さらに近郊の行政地区に勝つ必要があります。

 

これらのターゲットに対して、競合もおそらく、項目単位では似たことを行なっているはずです。教育支援、老人福祉の充実、など。

これら、似て非なるを実現する必要があります。

この似て非なるを、先に決めたヒト:対象者に対して提供します。

 

似て非なるとは、例えば、iPhoneのiOSと、androidは非常に似ています。似ていますが、根本思想が全く違うため、iPhoneを作る企業はAppleしかいません。一方で、android搭載のスマホはさまざまな企業が作ります。

androidをさまざまな企業が作る中でもさらに、似て非なるが存在します。日系企業はボロボロに負け、中華系が勝ち残っています。これは、中華系企業が似て非なることを行なっているから勝っているのです。

そういう質的な違いを生み出すことでしか、競合には勝てません。

DXで求められている変化は、競合に勝つことなので選ばれるような質的な違いを実現せねばなりません。

 

検討対象によっては、対象者に、似て非なるモノ(行政サービスによるあらなた居住体験)を提供するだけでは、戦略目標・目的を達成できない可能性があります。

その辺りは、c-4でシステム思考で議論した構造を見ながら、戦術レベルでの構造を議論していきます。

 

さて、ターゲットと、戦術レベルでの構造が見えれば、そのターゲットにどんな方向性のことを与えれば、組織にとっての得たい結果が得られるのか、例えば引っ越ししてくれるのか、が見えてきます。ここまできたら、次のステップです。

 

またこの段階で検討対象となるヒトが決まるので、この後でようやくデザイン思考が登場します。

ヒトの役に立つことと、組織(今回でいう行政)の成功を結びつけるためには、ここまでの設計が重要です。

 

c-6:ターゲットごとの新たな施策の検討

デザイン思考の出番です。

まずは対象のターゲットが、現在どんな体験をしているのかを明確にしていきます。

その上で、彼らにどんな体験(似て非なるもの)を提供すれば、戦術で規定した組織が意図する行動(例えば引っ越してきてくれるなど)をとってくれるのかを探します。

 

ここでは純粋にデザイン思考を使いながら、ターゲットの人生に役に立つ行政サービスを検討していきます。

この段階で、毎週、もしくは隔週程度ではターゲットに近しい人物(引っ越してきて欲しいのなら、自地区の住民に話を聞いてはだめ)にインタビューをし、その過程で常に検証を重ねながら検討を進めます。

この段階では、アイディアのままで良いです。ひとことで説明できようなレベルで、まずはターゲットが興味を持つ内容や、提供する価値(後述)を探すことが重要です。

 

c-7:提供に向けた構築

アイディアは、提供する物と、提供する価値に分かれます。

提供物は、提供者目線で見た時に物理的に何を提供しているか、です。

提供価値は、顧客側が感じる価値、その商品やサービスを購入する理由です。

 

例えば、20年同じ味のラーメンを出し続けるラーメン屋があったとします。

その店が出しているのは、20年変わらぬ味のラーメンです。

それをあるお客さんは、食べながら突然泣き出します。彼が感じていた価値は「父親とよく食べた思い出の味」です。これが提供される価値です。

この価値を正しく提供するためには、ラーメンのレシピを変えてはダメです。

価値を提供できるように、正しく提供物を設計する必要があります。

 

このような観点を踏まえながら、提供する価値を正しく伝えられるように提供する物、行政サービスを設計していきます。

 

c-6で探した顧客が興味と持つ価値を、正しく提供するための機能を洗い出し、次に機能を発揮できる物理的な実現手段を整理します。

その上て、それらを繋ぐための業務を作っていく・・・そんな進め方になります。

 

重要なことは、提供する価値を正しく届けられるように設計し構築したかと、提供価値は本当に求められるものだったかの2つの観点から検証を行うということです。

 

c-8:ローンチ

予算を確保して、新たな行政サービスをローンチします。

ローンチ後に行うべきことは、ターゲットが釣れているかと、そのターゲットが意図した理由で釣れているのかを検証し続けます。

その過程で、意図しないヒトが釣れている場合は、その理由等を詳しく押さえていきます。

この辺りになると、マーケティングとほぼ近い状況になります。

またそれら新しいターゲットを狙っていくに合わせて、伝え方をかえる、行政サービスを発展させるなどの工夫をしていきます。

 

首長がDX関連の会議に参加する可能性は、民間企業の経営者より可能性が低いのだけれど・・・・

この質問は、3.1で書いた、a、b、cのやる気の分類と被ります。

a、bぐらいなら、まぁあまり登場しなくよいです。

cは、毎週、もしくは隔週ぐらいでは登場いただきたいところです。

 

経産省的文脈を東京商工会議所で社長相手に説明する場合は、まずは社長が考えない、報告を聞くのは数ヶ月に1度という進め方をかえることからだと話しています。

DXでいうところの業務の進め方をかえる、ということを、報告してもらうタイミングを変更することから行うべし、と伝えています。

理由は簡単で、半年真剣に部下が考えた内容であっても、社長・首長としてそれを良いねと言えるかは別だからです。(人間の認知力の限界として、具体案が出てこないとコメントを出せないという罠がある)

 

この罠にハマると、容易に半年スリップします。

c-4に年月感を書きましたが、残り9年しかない中で半年のスリップは痛すぎます。

というわけで、ここも目的(a、b、c)によって登場いただく頻度やタイミングは異なります。

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とったのが、編集長河上なりの進め方です。

まぁこういうのをもとに、教科書的なものを作れたらなぁと思うところです。ぜひみなさんの感想を教えてください。

 

*0 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210729/k10013160231000.html

*1 http://www.izumi-fusaho.com/board/detail.cgi?sheet=hp6&no=25

*2 https://www.izumi-fusaho.com/

*3 https://www.mlit.go.jp/pri/kouenkai/syousai/pdf/b-141105_2.pdf

*4 http://www.city.hekinan.lg.jp/material/files/group/7/16setumei.pdf

*5 https://www.nishi.or.jp/shitsumon/shiseijoho/shinogaiyo/toshisengen/kensho.html

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