知の深化と知の探索。両利きの経営を戦いに例えると?

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ビジポコ編集長・河上です。

 

「ビジネスをポコポコ生み出せる会社になりたい!」というつぶやきをベースに命名したこのビジポコ。ビジネスをポコッと生み出すためには、新規事業の考え方を知るのが大切です。新規事業は手探りのようでいて、実はコツがあるからです。

 

今回のビジポコは新規事業をポコっとするために必要なコツを、早稲田大学の入山先生が提唱する『両利きの経営』という単語を紐解きながら、知の深化と知の探索の両利きについて解説していこうと思います。

 

【両利きの経営】

知の深化・・・本業の知見を深めていく

知の探索・・・本業ではないところの異分野を探っていく

 

“両利きの経営”ができると、イノベーションが起こせると入山先生は言います。

ここまでは、読書好きの勉強家の方々ならご存じではないでしょうか。そして実務家は「両利きの経営って難しいよね~」で終わってしまいがちです。

 

今回のビジポコは、難しいよね、で終わらせずに両利きの経営を実現する経営戦略の決め方を語ります。くり返しますが新規事業には考えるコツが必要です。そのコツとしての両利きの経営を見ていきましょう。

 

軍事における『順次戦略』と『蓄積戦略』

そもそも戦略には大きく2つの種類があります。

我々が普段からやりがちな、達成したい目標を定めて、達成するためにはどうしたらいいか、段階を検討して順番に進めていくもの。これを順次戦略と言います。

 

もう一つは、目標達成までの大枠での構造を抑えた上で、続けることに意味があることをやり続けて状況の反転を待つ蓄積戦略です。ボクシングのボディーブローのようなものです。

もう少し詳しく、第二次世界大戦で我々日本が米国にやられた戦略を見て行きましょう。(日本人としては嫌な例で恐縮ですが)

 

順次戦略

戦争に勝つために、日本に上陸して占領する必要がある。

では、どうしたら日本に上陸できるだろうか。上陸するためには船で近づくか、飛行機で近づくしかない。

 

そうすると、船や飛行機の移動距離が制約条件になります。燃料を満タンにしても5000kmしか移動できない、のように。

 

燃料がなくて移動できないのだとすると、どこかで燃料を補給するか、出発してから日本に着くまで補給なしで移動できるほど近い場所まで行くする必要があります。

 

そうなると、日本のどこに上陸するかによって攻めるべき島が決まり、

これらの島を順番に攻略していくのが、戦略になります。

 

 

蓄積戦略

では、蓄積戦略とはどのようなものでしょうか。

蓄積戦略は、文字通り蓄積を積み重ねる戦略で、昭和の日本でよく語られていた、コツコツやれば花が咲くというものです。

 

第二次世界大戦時の米軍は、日本は島国で物資を補給しなければならないので、物資を運ぶ船を何隻も沈め続けていけば、どこかのタイミングで日本は物資が足りなくなり、勝手に負けるだろう、と考えます。戦国時代でいう、兵糧攻めのようなものです。

そしてコツコツと積み上げるように、日本の船を沈めていったわけです。

 

これも最後は物理的に、日本が国内で消費する物資>国外から供給される物資と、バランスが崩れて貯金がなくなると破綻します。

そういった構造に従って、黙々と物資を運搬した船を沈め続けたわけです。

 

コップに水を入れ続けるとあふれますが、蓄積戦略とはいつかあふれるまでコップに水を入れていく感覚です。「コツコツやっていると、どこかのタイミングで一気に状況が変わる」的な考えをベースとしています。ただ、それゆえ選ばれづらいのです。そして、昭和の考え方は、令和ではすっかり消えたのです。

なぜでしょうか。

 

コツコツ型はリターンが見えない

 

蓄積戦略を、ボクシングで例えてみましょう。

ボクシングのボディーブローは50発で効く場合もあれば、1発ダウンもありえますよね。本当にノックアウトするのに何発必要かは戦ってみないとわかりません。コツコツ型ではリターンが見えないから、蓄積戦略ではなく順次戦略に頼りたくなります。

 

順次戦略は、目の前の売り上げを追いかけることに他なりません。すでに業務が存在して、マニュアル通り社員に作業させれば、売り上げに直結する、つまりすぐに現金へ直結することだけに焦点を合わせがちとなります。

 

目先の売上を5000万円立てられる社員がいるとして、新規事業に手を取られると3000万円の売上しかできなくなる。残りの2000万円の穴を埋めるために、今期中に新規事業が役立つかというとそうではないと。だから新規事業は社内中から、ほうぼうから文句を言われます。

 

新規事業は蓄積戦略である

 

これが新規事業にどう関係するかというと、新規事業は会社の生き残りを目的とした、蓄積戦略だということです。

ボディーブローと同じように、新規事業も何個ローンチすれば会社が生き残れるほどのビジネスになるかは、神のみぞ知ります。新規事業を打ち続けていなければ、既存ビジネスが崩壊したときには倒れるしかありません。

 

そう、新規事業は蓄積戦略なのです。コツコツと当たるまで積み上げる必要があります。売上が下がり、文句を散々言われ、そして儲かるかどうかは全然わからない仕事。それが新規事業。でも新規事業は生き残りをかけて誰かがやらなければならないのです。

 

 

両利きの経営が難しい理由

 

役立つことだけ、目の前の儲かることだけをしていては、会社は先細りになります。

会社を残すために新規事業を行おうとすると、必然的に行き着く先は両利きの経営です。

 

そもそもイノベーションを提唱したのはオーストリアのシュンペーター。1909年に名著『経済発展の理論』を書き、新結合という名で技術的な革新について触れています。イノベーション理論はシュンペーターの主張の中心で、AとBをつなぐ新結合によって新しいものが生み出されると主張しました。

 

両利きの経営では「知の深化」と「知の探索」をやることで、知識の範囲が広くなり新しい組み合わせを生み出せるようになると主張しています。知識の量が増えれば、組み合わせの数も増える。納得のロジックです。

 

しかし問題は、知の探索がやりにくいことです。そもそも探索しないと知らない範囲とは、本業以外、自社事業以外の領域のことです。

たとえば広告代理店の電通が金魚すくいのポイを作るとか、トヨタ自動車が本気でインドカレー屋を開くとか。上司から怒られそうじゃないですか?これが、両利きの経営を実現するときの1番の障壁です。

 

しかしこういった知の探索をすることは、ボディーブローを打ち続けるのと同じで構造上は正しい行動です。「金食い虫」「遊んでいる」と言われたって、戦略上は正しい行動なのです。

 

この一見すると無駄とも思えることへの社員と資金と時間の投下を、経営戦略として継続できるかどうか。そこが勝負を分けます。

 

ちなみに、みんなが大好きなGoogleは、20%ルールと呼ばれるものを業務として組み込んでいます。

20%ルールとは「労働時間の20%は、各社員好きなことをやっていいよ」というものです。これが、一見無駄とも思えることを当然のこととして取り組む際の仕組みであり、だからこそ彼らはイノベーションを生み出し続けるのです。

 

藤田さんの疑問

ここで藤田さんから質問が。「私はライターをしながら、実家のウニ屋の売り子をしようとしています。それも他人から見たら『何で?』となりますが、そんな感じでしょうか?」と。

 

まさにその通りです。実家がウニ屋さんだと知らない人から見ると、ライターとウニ屋はかけ離れすぎていて訳がわからない。実際にやってみたら、きっと社内の人がいたら大バッシングを喰らうでしょう。

 

ライターがウニ屋さんをやるのは、まさに新規事業であり、知の探索です。新規事業は孤独で悩みが深いもの。ビジポコはそうした人が進むべき航路の海図になれればなと思っています。

 

コツコツが「戦略」だと思っている人は少ない

 

さらに藤田さんから質問が。「私はライターを始めたばかりの頃、ランサーズでたくさんお仕事を請け負って頑張って書いていました。それがいつの間にか1000件以上の評価につながり、いつの間にか向こうから仕事が来るようになりました。“いつか状況が転換する”、とはそういう感じでしょうか? 」

 

まさにその通りで、評価をコツコツ貯めると、ある日突然、お客様に評価されるようになります。それが蓄積型での成果です。ただ、コツコツは先がみえないので、下手したらたとえば「評価をためるための句読点の打ち方」を研究してしまうリスクもあります。それよりは★の数をためないといけないのです。

 

蓄積戦略は結果が見えないものの好例ではないでしょうか。

 

 

まとめ

 

「両利きの経営って難しいよね」で終わっていては進歩しません。今回見たような、両利き、すなわち「知の深化」「知の探索」をより深めていくのがイノベーションを生み出すための前提となる構造です。

知の深化とは文字通り深めていくことで、知の探索は浅くてもいいので広く遠く、探索していく。

 

戦略といえば、未来のゴールを決めて逆算していく順次戦略ばかりが言われる日本。昭和時代に置き忘れてきた、蓄積戦略。

 

会社を存続させるのが目的で、新規事業やDXに挑戦するのであれば、蓄積戦略を採る必要があります。

つまり、イノベーションのためには遠くの情報を取りに行く必要があるのです。たとえばライターがウニ屋の情報を。トヨタ自動車がカレーを、電通がポイを。

違う情報を探索する必要があり、情報を遠くに取りにいけた会社だけが、どこかでドカンと一山当てるのです。

 

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ライター藤田は、ウニ屋の娘です。創業者である母親が国の専業主婦1円起業枠でゼロから立ち上げた北海道根室市のウニ屋の娘で、ディスカッションを楽しく学びある記事に仕上げます。

 

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