ビジポコ編集長・河上泰之に事業の相談をしてみようのコーナーです。
一般に「インサイトがわかれば売れる」と聞いたことがあります。インサイト=消費者の隠れた本音です。本当は何を求めているかがわかれば、そこに商品やサービスを提供するだけで売れてしまうというもの。
とはいえ、人間の本音はどのように見つければいいのでしょうか?
たとえば、私(ライター藤田)はときどき疲れて仕事が進まなくなります。書けないと締切が襲ってくるのですが、疲れてしまってどうしても進みません。そんなとき、“伸び“をして”お茶“を飲むと一気に回復する場合があります。仕事が進まない理由は単に「喉が渇いていただけ」だったのです。別に疲れてもなければ、生産力が本格的に下がったわけでも、取り組む仕事の難易度が高すぎたわけでもなく、単に喉が渇いていたのでした。
そこで私は、人は自分自身の問題ですら正確に認知できないのではないかと思ったのです。ではどのようにして価値観を見つけ、人物像を明確にし、その内側にある本音、しかも隠れた本音に迫るのでしょうか?
今回のビジポコは、「本音を見つけよう」です!
【ビジポコの学び】
・何をよしとするかは価値観次第
・価値観を知るにはまず行動観察から
・本音は行動に出るから行動をノートにつける
価値観を見つける
以前「何をよしとするかは価値観次第」という話が出ました。下記のイラストで赤ちゃんが見ている景色と、内側にある価値観と。
お母さんとお父さんは「可愛い!だいすき!」「いいね!」といっているのですが、赤ちゃんは「・・・」です。何もいいません。赤ちゃんに見えている景色はたくさんのお尻がくるくるまわっているのみ。しかし、これを「よくない!」と決めつけるのも脳内で勝手に想像していることになります。もしかしたら、赤ちゃんはこれを「いいね」と思っているかもしれないのです。だって『おしりたんてい』というお話がブームになるぐらいですから、価値観は人それぞれ。
―――よりふさわしいお客様に売っていくために、価値観を集める必要があります。しかし価値観はどう集めるのでしょうか?
河上「10人に話を聞くと、3~4人は似た話をする場合があります。何か似ている感じがある場合。それは価値観が似ていることを意味します。」
人物像に書き起こす
河上「仮に分けることが意味のある検討だとすると、分けていきます。観察行為そのものが、エスノグラフィ(行動観察)で、そこからインサイトを抽出します。これは未開部族の行動原理を研究する際に使ったのが始まりですが、行動を先に観察して言葉が後に来るのです。行動をノートに記録していきます。価値観を抽出して、それを商品開発に活かしていく。」
ジャイアンリサイタル開催の場合
たとえば、『ドラえもん』のジャイアンリサイタルを考えてみましょう。スネ夫がジャイアンから自身のコンサートチケットを押しつけられ、スネ夫はのび太にチケットを押しつけます。そしてのび太はドラえもんや出来杉くんを強引に誘います。
―――ジャイアンリサイタルの一連の話からどのような価値観が読み解けるでしょうか?
河上「スネ夫とのび太くん(とドラえもん)は、『誰かを道連れにする』という価値観を持っているように見えます。しかし、出来杉くんには『道連れにする』という価値観はありません。うろたえて誰かにチケットを押しつけたりしないのです。」
―――すごい!確かにスネ夫とのび太とドラえもんはジャイアンリサイタルに連れ立っています。結局人を巻き込んでいるのですよね。背後にはいつも「誰かを道連れにする」という価値観があるんですね!でもどうやって価値観を導いたのでしょうか?
河上「行動を見ていきます。何かの瞬間に取る行動が似ている人たち。同じ価値観を持った集団です。行動を観察し、個人単位で収集・分析していきます。そして人物像に書き起こすんです。」
表面的なニーズとインサイトは異なる
―――たしかに、スネ夫とのび太とドラえもんとそれから出来杉くんの行動だけを観察すると「人を道連れにする」と「人は人、自分は自分」という行動に分けられますね。そして3人はイヤがっているのに、結局リサイタルにはやってくる。
河上「たくさんの行動をかき集めてみるとわかります。表面的なニーズとインサイトは全然違うものです。」
河上「対象者の愉悦とかも考えてみます。サボりたい、見下したいなどのマイナスの感情が起点となる場合もあります。ネガティブな感情の方が優先して体を動かします。負の側面もちゃんとチェックするのが重要で、仮説を立ててみるのが大切です。」
―――インサイトを探すとなると難しく感じますが、行動を観察してノートに書き出すなら地道にできそうです。
河上「インサイトを別の行動で満たしているときもあります。人は多様ですが、意外と誰にでも当てはまる行動指針を持っている場合も。そこで共通のインサイトで貫くプロダクトを作ると、広く売れるのです。」
『ドラえもん』のジャイアンリサイタルの例をみると、スネ夫とのび太とドラえもんは、嫌そうな感じでお互いにチケットを押しつけ合いつつ、実際嫌々リサイタルにやって来ているようにみえます。でも、“言葉は後“なので行動を観察してみると、出来杉くんが誰にもチケットを押しつけていないのに対し、3人は押しつけています。つまり「誰かを道連れにする」という価値観が導けるわけですね。
そして重要なことに、嫌そうな顔をしながらリサイタルに参加する気持ちはわからなくとも、「誰かを道連れにする」なら当てはまる人が大勢いそうという点です。もしかしたらまったく道連れにする感覚がわからない人もいるかもしれません。それはたとえば、「おしりたんてい」が好きで、人形のお尻がくるくるとまわっているのが好きな人もいるのと同じではないでしょうか。
ビジポコの学び
行動だけを見ると異質でも、内側にある価値観を見てみると誰にでも当てはまることは多いのかもしれません。広く当てはまるからこそ同じ価値観を持った集団が生まれ、同じ行動を取っているからこそ、そこに向けて宣伝すれば難なく売れると。
利益は「誰の、何の問題を、どう解くの」からやってくると習いました(リンク)。そのうち「誰の」をより深く知るために、価値観と本音を知っていく必要があります。
「インサイトを発見する」と聞くと難しそうですが、行動を観察して個人単位でノートに記録し、価値観を抽出する、とやるべき行動を小さく分割してもらえると、行動が見えてくるのではないでしょうか。
【ビジポコの学び】
・何をよしとするかは価値観次第
・価値観を知るにはまず行動観察から
・本音は行動に出るから行動をノートにつける