ビジポコ編集長・河上泰之に新規事業の作り方について教わろう!のコーナーです。
「何か新しいよい商売はないかな」と経営者の方は常に思われます。個人事業でも同様で、新しい事業を模索されるのではないでしょうか。
今回のビジポコは「事業を作る」とは何を作り、「事業を検討する」とは何を検討するのかについてお届けします。
【ビジポコの学び】
・新規事業を検討するとは、目的をきちんと見据える
・目的とは、究極的には法人が生き残ること
・新規事業のテーマを「うちの法人でやる」と思えるか
・「顧客にとって価値がある」からスタートする
・徹底して考え抜く
「事業を作る」とは何を作るのか
河上「新規事業を作るとき。作るといっても何を作り、なぜ作るのでしょうか。」
話はそこから始まりました。
河上「たとえば、私は
- 2030年までに新しく50億円の売上を作る必要があります。
- 中期経営計画書に「新規事業に取り組む」と書いちゃいました。
といった相談を受けることがあるのですが、数字を立てて計画すること自体は、実は経営に関してはあまり意義にならないといいます。数字として50億なのか5億なのか。500億か5兆円なのかという数字は、取り組んだ結果としての数字でしかないのです。」
―――経営の観点からすると、新規事業に取り組む意義になり得ないとはどういうことですか?
「新規事業に取り組む意義が見えていないと、そもそも何のためにやっているのかわからなくなります。ここが見えてないと取り組みそのものがグズグズと崩れていってしまうのです。なので、最初にとても大切なこととして、【新規事業に取り組む意義】を考えていただきたいです。」
―――いきなり難しいですね。新規事業に取り組む意義・・・
「結論から言いますと、『法人が事業環境の変化に対応して生き残ること』これだけだと思っています。会社を運営していくにあたって、経営者や役員がコントロール可能なのは会社のなかのことだけです。ビジネスをする環境、政治や経済動向、社会、技術などはコントロールの範囲外であり、勝手に変わっていきます。」
「勝手に環境が変っていくなかにおいて、経営する会社が生き残り続ける、環境がどれぐらい変わろうと法人が残っていくのだということです。」
―――そのなかで新規事業とは?
「会社が残るためのひとつの方法でしかないという位置づけになります。新規事業が不要、まったくやらなくていい会社はどんな会社かというと、環境が激変してダメージを受けたときに、『会社をたたんでしまえばいいや』と割り切れる人たちは別に新規事業をする必要はありません。そうではなく、法人を残すのだと決めたのであれば、まわりの環境が変化し、いまのビジネスで売上があがらなくなってしまったときも法人を残していくために、新しい売上を立てて利益を会社に残す。そのために新規事業があるんです。」
―――「中期経営計画に書いてしまった」ではいけないということでしょうか。
「社内メンバーの方々ならそういう視点でも構いません。しかし経営者としてはとても強い覚悟を持って新規事業に向き合い続ける必要があるのです。幸運にも新規事業に手をつけなくても会社が維持できたのであれば、それはとてもラッキーなことだと思います。しかし、コロナ禍、日本国をあげてのデジタル化推進、デジタル前提ですべてを作り替えるなど、過去やってきたビジネスをすべてDXで作り変えていこうとするなかで、競合も変わりますし経済状況も変わります。」
―――政治も変わります。
「政治的決着として何を優先するかも変わります。人口が減り続けるなかで、ほかの国の人達に来てもらうのか、もしくは人口が減ることを受け入れていくのか。社会も変わっていくなかで、新規事業をやらなきゃとなったら、それは本業と同じぐらい“本気で“取り組まなければいけないものであるとまずは理解するのがよいと思います。」
もっとも大切な「検討する」について
―――新規事業を検討するといっても、検討にも色々あります。
「新規事業の方向性は大きく3つ。
商品やサービスという切り口で従来扱っていたものと、新しく出していくもの。
それから、昔のお客さんか新規のお客さんか。
これだけで2軸となって、4つの領域ができます。
「従来扱っていたものを・既存のお客さんに売る」は、顧客がひとりも増えません。
「従来扱っていたものを・新しいお客さんに売る」は、投資効率がよいです。安定性も増す気がしてとても魅力的に見えます。
「新しいものを・既存のお客さんに売る」は、こちらもまた顧客がひとりも増えません。
「新しいものを・新しいお客さんに売る」は、パラドクスを抱えています。現在のプロダクトが微妙だから新しいことをやろうとすればするほど、自分たちの法人がやるべき意義を見つけられないというのがパラドクスです。
よって経営者や新規事業の担当の責任者が、このテーマを「うちの法人でやる」と思えるか。それですべてが決まってきます。」
新規事業で劇的に変化した寺田倉庫
河上は続けます。
「新規事業に取り組んで、劇的に変わった例があります。それが寺田倉庫という会社です。寺田倉庫は、1950年ごろにお米を預かるところから始まったB2Bの会社でしたが、創業60周年を機に倉庫業をやめようとします。
なぜなら、倉庫業は「どのぐらいの容量をいくらで預かってくれる」というスケールと価格で他社とひたすら比較され続けるビジネスだからだと寺田倉庫の人たちはいっていました。
値段勝負はよいことがないので、もうそんな事業はやめて、B2Cの市場を開拓していこうとしたのです。個人からダンボール1つという形で荷物を預かるようになりました。これがとても使い勝手がよく、冬服や夏服をどんどん倉庫に放り込み、必要になったら取り出すことをやると、(利用者の)勝手が非常によくなります。
家のなかにある荷物を倉庫に預けていって、荷物がどんどん家の外に出ていきます。すると「家のなかの収納スペースが小さくてもよいよね」と変わっていく。寺田倉庫が始めた「ミニクラ」は大ヒットしました。
―――現在はサマリーポケットとも提携されています。我が家も使っています!
「ミニクラがあれば、マンションの収納も少なくてよいのです。マンションは50年60年使うモノですから、ミニクラのサービス自体も何十年続くことが想定された上で、設計がなされています。
こう考えると単純にB2Cにいって成功した話ばかりか、電気ガス水道、インターネットに続く第五のインフラとしてサービスの地位を上り詰めようとしています。B2BだったものがB2Cになって、新規事業です。
―――ミニクラはそこまで見据えたサービスなのですね。
「ここで、93%という数字が出てきます。
93%って何でしょうか。降水確率なら、確実に傘を持って出るぐらいの数字です。実は、93%は寺田倉庫がB2BからB2Cに切り替わるに当たって、会社を去った社員の割合です。まず主力事業をどんどん売却していき、その仕事と一緒に社員も移動してもらったのです。売上は1/7に減り、徹底的に売り抜いて、キャッシュフローが8倍になって行くなかで、残った社員はわずか7%でした。
潤沢な資金はあるものの、人はほとんどおらず、なおかつ元のビジネスは陰も形もない・・・。そんな焼け野原からもう一度作り直したのが、寺田倉庫の新規事業の“すごみ”となります。」
“価値がある“から始める
――――すごいです!エキサイトします。
「【顧客にとって価値がある】【実現できる】【儲かる】この3つが重なるところが新規事業と説明しました。寺田倉庫の人たちは主力事業を売却しまくり、自分たちが“できる“からスタートするのではなく、”価値がある“からスタートし、できない部分は採用などをして補おうとしました。結果としてお客さんにとって価値があり、どうしたら儲かるのかを徹底して考え抜いたように見えます。
事業を検討する、とはここまで徹底的にやりきった上で、ローンチし、取引してみるものです。お客さんが実際に1箱数百円で預け入れてくれて、取引成立したとして。どうやったら継続的に売り続けられるか、という商いの形まで見つけます。その型に従いながら、だんだんと規模拡大している途中のように(私には)見えます。とてもよい進め方ですよね。
新規事業の目的は「法人が事業環境の変化に対応して生き残ること」とお伝えしましたが、会社にとって取り組む意義や目的は一体何なのか。長くて大変なことを本業やりながらも続けていくには、なぜそれをしなければならいのか。新規事業を通じて何を手に入れたいと思っているのか。そこを持っておかないと、やりにくくなります。」
まとめ
新規事業を検討するとは、「自社がやるべき理由」をきちんと見つけ、新しい事業を通じて何を手に入れたいのか、そして既存事業で大変ななか、なぜそれをしなければならないのかを考えていくところから。
新規事業を通じて得たい目的が明らかになれば、それが指針になります。既存事業とバッティングしたとき、お客さんが来すぎたとき、そして来なかったとき。さらには事業拡大やトラブル時など大きな判断を迫られる場合などに、指針となってくれるのではないでしょうか。
【ビジポコの学び】
・新規事業を検討するとは、目的をきちんと見据える
・目的とは、究極的には法人が生き残ること
・新規事業のテーマを「うちの法人でやる」と思えるか
・「顧客にとって価値がある」からスタートする
・徹底して考え抜く